安衛法の新規化学物質届出|少量新規(100kg)の確認申請と化審法との違い
※本記事は執筆当時の情報に基づきます。法改正等により現在の内容と異なる場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の法令をご確認ください。
新しい化学物質を製造・輸入するときは、化審法だけでなく労働安全衛生法(安衛法)の手続きも必要になります。化審法が環境を通じた影響を見るのに対し、安衛法は、その物質を扱う労働者の健康を守るための制度です。
安衛法第57条の4は、新規化学物質を製造・輸入しようとする事業者に、あらかじめ有害性の調査を行い、その結果を厚生労働大臣に届け出るよう求めています。届出が要らなくなる場合もありますが、多くは事前に大臣の確認を受けることが条件です。
元化学メーカー研究員として新しい物質を扱ってきた立場から、安衛法の新規化学物質の届出と、少量新規などの確認申請の手順を整理します。
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安衛法・化審法・化管法の位置づけ
化学物質の管理には、安衛法のほかにも複数の法律が関わります。目的が異なるため、規制がかかる場面や対象になる事業者も分かれています。
| 法律名 | 目的(第1条) | 主に規制がかかる場面 | 主な対象者 |
|---|---|---|---|
| 化審法 | 化学物質による環境の汚染の防止(新規化学物質の事前審査・製造等の規制) | 製造・輸入 | 製造・輸入事業者 |
| 安衛法 | 職場における労働者の安全と健康の確保 | 製造・輸入(新規化学物質の届出)、使用・保管 | 化学物質を製造・取り扱う事業者 |
| 化管法 | 事業者による化学物質の自主的な管理の改善の促進 | 排出・譲渡 | 排出・譲渡する事業者(事業者間の取引) |
- 化審法:製造・輸入前の「予防」
- 国内で新しく出回る物質が、環境を通じて人の健康や動植物に悪い影響を与えないかを、事前に確かめる役割です。
- 安衛法:作業現場の「安全管理」
- 職場の労働者を守り、労働災害を防ぐことが目的です。新規化学物質の届出のほか、容器へのラベル表示、SDSの交付、リスクアセスメントなどを、化学物質を製造・取り扱う事業者が担います。
- 化管法:排出・譲渡の「事後管理」
- すでに流通している物質について、環境への排出量を把握して届け出る仕組み(PRTR)と、取引先へ情報を伝える仕組み(SDS)からなる制度です。
新しい物質の製造・輸入を始める前には、環境への影響(化審法)と労働者の健康(安衛法)の両方で、事前の手続きが必要になることがあります。

安衛法の新規化学物質とは
安衛法の新規化学物質は、化審法の新規化学物質とは別に定められています。まず範囲を確かめます。
既存化学物質として政令で定めるもの以外の物質
安衛法第57条の4第1項は、「既存の化学物質として政令で定める化学物質」以外の化学物質を新規化学物質としています。届出を受けて厚生労働大臣が名称を公表した物質も、既存の化学物質に含まれます(同条第3項)。
化審法で既存化学物質であっても、安衛法で既存化学物質とは限りません。2つの法律で、それぞれ新規化学物質に当たるかを確かめる必要があります。

届出をしないまま製造・輸入したとき
第57条の4第1項に違反すると、50万円以下の罰金の対象になります(第120条第1号)。法人の従業者が業務として違反した場合は、行為者のほか法人にも罰金刑が科されます(第122条の両罰規定)。
原則の手続き:有害性の調査と届出
確認申請の対象にならない場合は、有害性の調査を行ってから届け出ます。
有害性の調査として行う試験
有害性の調査は、次のいずれかの試験で行います(労働安全衛生規則第34条の3)。
- 変異原性試験
- がん原性に関して、変異原性試験と同等以上の知見を得られる試験
- がん原性試験
試験は、必要な組織・設備を持つと認められる試験施設等で行う必要があります。
届出の方法と届け出る事項
届出は、製造・輸入の「あらかじめ」行います。提出は、2026年7月1日からe-Gov の電子申請が原則になりました。電子申請が著しく困難な場合に限り、様式第4号の3の書面で提出できます(規則第34条の4)。少量新規などの確認申請も同じです(規則第34条の5・第34条の8・第34条の10)。
労働安全衛生法に基づく新規化学物質の電子申請について|厚生労働省
主な届出事項は次のとおりです。
- 製造か輸入かの別、事業場の名称・所在地
- 常時使用する労働者の数と、新規化学物質を扱う労働者の数
- 名称、構造式または示性式、物理化学的性状
- 製造・輸入の開始後3年間の毎年の予定量
- 用途
- 有害性の調査の結果と、予定している製造・取扱いの方法
届出の後は、調査の結果に基づいて、労働者の健康障害を防ぐ措置を速やかに講じます(法第57条の4第2項)。厚生労働大臣は、学識経験者の意見を聴いたうえで、設備の整備や保護具の備え付けなどを勧告することがあります(同条第4項)。
届け出た物質の名称は公表される
届出を受理した物質の名称は、受理から1年以内に、インターネット等で公表されます(法第57条の4第3項・規則第34条の14)。その物質について特許を出願している場合は、出願公開などの後に公表されます。
届出が要らなくなる4つの場合と確認申請
第57条の4第1項のただし書と政令により、次の場合は届出が要りません。
| 場合 | 根拠 | 事前の確認 |
|---|---|---|
| 労働者が新規化学物質にさらされるおそれがない | 法第57条の4第1項第1号 | 必要(製造・輸入の30日前までに申請) |
| がん原性がないと既存の知見等から判断できる | 同項第2号・規則第34条の9 | 必要(同上) |
| 一の事業場で年100kg以下(少量新規) | 施行令第18条の4 | 必要(同上) |
| 試験研究のための製造・輸入 | 同項第3号 | 不要 |
| 一般消費者向けの製品として輸入し、国内で労働者に小分け・詰め替え等をさせない | 同項第4号・規則第34条の13 | 不要 |
確認が必要な3つは、確認に基づいて最初に製造・輸入する日の30日前までに申請しなければなりません(規則第34条の5・第34条の8・第34条の10)。申請を受けた厚生労働大臣は、審査をして結果を通知します(規則第34条の12)。
少量新規の確認申請(一の事業場で年100kg以下)
少量新規は、一の事業場における1年間の製造量・輸入量(両方行う場合は合計)が100kg以下である旨の確認を受けて、その確認のとおりに製造・輸入する場合です(施行令第18条の4)。
申請では、事業場や物質の情報に加えて、確認を受けようとする期間も記載します(規則第34条の10)。確認の有効期間は2年です(規則第34条の11)。
労働者がさらされるおそれがない旨の確認
予定している製造・取扱いの方法からみて、労働者が新規化学物質にさらされるおそれがない場合の確認です(法第57条の4第1項第1号)。申請では、予定している製造・取扱いの方法を示します(規則第34条の5)。
確認の後に申請の内容が変わったときは、遅滞なく届け出ます(規則第34条の6)。さらされるおそれがあると認められると、確認は取り消されます(規則第34条の7)。
がん原性がない旨の確認
既に得られている知見等から、がん原性がないと判断できる場合の確認です(法第57条の4第1項第2号・規則第34条の9)。申請では、がん原性がない旨の知見等を示します(規則第34条の8)。この確認を受けた物質も、名称が公表されます(法第57条の4第3項)。
化審法の少量新規との違い
新しい物質を製造・輸入するときは、化審法と安衛法の両方で手続きが必要になることがあります。少量新規は名前が同じでも、中身が異なります。
| 項目 | 安衛法の少量新規 | 化審法の少量新規 |
|---|---|---|
| 目的 | 労働者の健康障害の防止 | 環境を通じた人の健康・生活環境動植物への被害の防止 |
| 数量の上限 | 一の事業場で年100kg以下 | 申出者ごとに年度1トン以下、かつ環境排出数量の全国合計も1トン以下 |
| 他社の影響 | 受けない(事業場ごとの数量) | 受ける(全国合計で管理) |
| 確認の期間 | 2年を限り有効 | 年度ごと(毎年度の申出が必要) |
| 申請の時期 | 最初に製造・輸入する日の30日前まで | 年7回(予定)の受付期間 |
| 根拠 | 安衛法第57条の4・施行令第18条の4・規則第34条の10・第34条の11 | 化審法第3条第1項第5号・第2項・施行令第3条第2項・第3項 |
化審法の手続きを済ませても、安衛法の確認は別に受ける必要があります。2つの手続きは窓口も期限も別なので、製造・輸入の予定が決まった段階で、両方の日程を並べておくことを推奨します。
新規化学物質の製造・輸入を始めた後の管理
新規化学物質を製造・輸入した後は、ラベル表示・SDS・リスクアセスメントなど、化学物質を扱う事業場としての管理が続きます。対象かどうかは物質ごとに確かめる必要があります。


よくある質問
安衛法の新規化学物質について、よく寄せられる質問をまとめました。
化審法で既存化学物質なら、安衛法の届出は要りませんか?
要らないとは限りません。安衛法の新規化学物質は、「既存の化学物質として政令で定めるもの」と、届出を受けて名称が公表された物質以外の物質です。化審法とは別に、安衛法でも新規化学物質に当たるかを確かめてください。
安衛法の少量新規の確認は、毎年申請が必要ですか?
確認は2年を限り有効です(規則第34条の11)。申請では、確認を受けようとする期間を記載します。期間が切れた後も製造・輸入を続ける場合は、あらためて確認を受けます。化審法の少量新規が年度ごとの申出なのとは異なります。
確認申請はいつまでに出せばよいですか?
少量新規・労働者がさらされるおそれがない旨・がん原性がない旨の3つの確認は、確認に基づき最初に製造・輸入する日の30日前までに申請します。原則の届出は、製造・輸入の「あらかじめ」行います。
試験研究のための少量の輸入でも、手続きが必要ですか?
試験研究のために製造・輸入する場合は、届出も確認も要りません(法第57条の4第1項第3号)。試験研究の範囲を超えて製造・販売に使う段階では、届出または確認が必要です。
届出や確認申請は書面でも出せますか?
2026年7月1日から、e-Gov の電子申請が原則です。電子申請が著しく困難な場合に限り、規則の様式による書面で提出できます。
当事務所の強み:化学と法令の両面から手続きを整理
安衛法の新規化学物質の届出と少量新規の確認申請は、届出書の作成と提出の代行が社会保険労務士の業務のため、当事務所ではお引き受けしていません。当事務所は化審法の届出・申出をお引き受けし、その際に安衛法の手続きが要るかと、その時期をお伝えします。
新規化学物質の手続きは、物質の特定と法令の当てはめの両方が必要です。
- 物質の特定と書類の作成:元化学メーカー研究員として、構造式・物理化学的性状・用途の記載を、SDSや社内資料から正確に読み取って整理し、化審法の届出書類をまとめます。
- 安衛法の手続きの要否もあわせて確認:化審法の手続きのときに、安衛法の届出や少量新規の確認が要るか、期限はいつかをお伝えします。化審法の少量新規(年度ごと)と安衛法の少量新規(2年)では期限の考え方が違うため、それぞれの期限を分けて整理します。

報酬の目安とご依頼の流れは、次のページにまとめています。

物質名・用途・年間の予定数量がわかれば、化審法と安衛法のどの手続きが必要かを先に整理できます。開発中の物質でもご相談ください。
