新規化学物質とは|化審法の届出義務と4つの特例制度の選び方
※本記事は執筆当時の情報に基づきます。法改正等により現在の内容と異なる場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の法令をご確認ください。
新規化学物質を製造・輸入しようとする事業者には、化審法(化学物質審査規制法)に基づく事前の届出義務があります。この手続きを終えないまま輸入すると税関で許可が下りず、貨物が港で止まります。
化審法は、化学物質の性状(分解性・蓄積性・毒性)に着目し、環境を経由して生じる影響を管理する法律です。目的は次の2点に集約されます。
- 人の健康を損なうおそれがある化学物質による環境汚染の防止
- 動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境汚染の防止

元化学メーカー研究員として研究開発の現場で化学物質を扱った立場から、新規化学物質の定義、届出が必要になる場面、4つの特例制度の選び方までを整理します。
新規化学物質とは

新規化学物質とは、化審法第2条第6項が定める次の物質「以外」の化学物質をいいます。
- 国が公示した化学物質(審査を経て公示されたもの)
- 第一種特定化学物質・第二種特定化学物質
- 優先評価化学物質
- 既存化学物質名簿に記載されている化学物質
つまり「既存のリストのどこにも載っていない物質」が新規化学物質にあたります。日本国内で初めて製造・輸入される物質と考えると理解しやすくなります。
自社の物質が名簿に登録されているかどうかは、NITE(製品評価技術基盤機構)が公開しているデータベース「J-CHECK」等で事前に検索・確認できます。
届出義務が生じるタイミング
化審法第3条第1項は、新規化学物質を製造し、または輸入しようとする者は、あらかじめその名称等を厚生労働大臣・経済産業大臣・環境大臣に届け出なければならないと定めています。
「あらかじめ」であることが実務上の要点です。製造・輸入を始めてから届け出るのでは間に合いません。特に輸入の場合、手続きが完了していないと税関で輸入許可が下りず、貨物が港でストップして納期遅延などのトラブルに発展します。
届出が不要になる場合
第3条第1項のただし書は、届出を要しない場合を定めています。主なものは次のとおりです。
- 試験研究のため製造・輸入するとき(第2号)
- 試薬として製造・輸入するとき(第3号)
- 中間物等として、環境汚染が生じるおそれがない旨の確認を受けたとき(第4号)
- 一の年度の製造・輸入予定数量が政令で定める数量以下である旨の確認を受けたとき(第5号=少量新規)
- 高分子化合物で、定められた基準に該当する旨の確認を受けたとき(第6号=低懸念高分子)
このうち第4号から第6号が、後述する特例制度にあたります。
化審法の全体像と他法令との違い

化審法は、新しい物質が国内に流通する前の「事前審査」と、流通が始まった後の「継続的な監視」を組み合わせて運用されています。
| 項目 | 事前審査 | 継続管理 |
|---|---|---|
| 届出のタイミング | 製造・輸入を「しようとする前(あらかじめ)」 | 製造・輸入を「した後(事後:毎年6月)」 |
| 制度の目的 | 未評価の物質による環境汚染を防ぐための予防的制度 | 国内の流通状況を把握し、リスク評価を行うための基礎データ収集 |
| 主な届出内容 | 名称、構造式、予定数量、用途、安全性試験データ | 前年度の実績数量(1トン以上の場合)、詳細な用途 |
安衛法・化管法との役割の違い

化学物質管理には化審法のほかにも複数の法律が関わります。立法目的が異なるため、規制の対象となるフェーズや事業者の役割も分かれています。
| 法律名 | 目的 | 取扱フェーズ | 対象者 |
|---|---|---|---|
| 化審法 | 事前審査・製造等規制 | 製造・輸入 | 製造・輸入事業者 |
| 安衛法 | 労災防止・安全確保 | 使用・保管 | 取扱事業者 |
| 化管法 | 排出量把握・情報提供 | 排出・譲渡 | 排出・譲渡元事業者(BtoB取引) |
- 化審法:製造・輸入前の「予防」
- 国内に存在しない物質が環境や人の健康に悪影響を与えないか、事前にチェックする関所の役割です。
- 安衛法:作業現場の「安全管理」
- 主に職場の労働者を守り、労働災害を防止することが目的です。容器へのラベル表示、SDSの備え付け、リスクアセスメントなどを、化学物質を使用・保管する事業者が担います。
- 化管法:排出・譲渡後の「事後管理」
- すでに流通している物質の環境への排出量把握や、他社への情報提供(SDS)を目的とした制度です。
新しい物質の製造・輸入を開始する前には、環境への影響(化審法)と労働者への毒性(安衛法)の両面で事前の手続きが必要になります。化審法だけ済ませて安衛法を失念するケースが実務では起こりがちです。

4つの特例制度と選び方
新規化学物質の届出・申出では、数量や用途に応じた特例制度をどう選ぶかが、コストとスピードを左右します。
| 制度名 | 数量制限(全国合計/年) | 試験費用目安 | 受付頻度 | 選択判断基準 |
|---|---|---|---|---|
| 少量新規(法第3条第1項第5号) | 1t以下 | 低(試験不要) | 年7回 | 少量かつ迅速に製造開始したい場合。毎年の申出が必要 |
| 低生産量新規(法第5条第4項) | 10t以下 | 中(1,000万円未満) | 年10回 | 1tを超えるが一定の安全性が確認できる場合。毎年の申出が必要 |
| 低懸念高分子・PLC(法第3条第1項第6号) | 無制限 | 要(溶解性・安定性試験等) | 随時 | 高分子化合物で安全要件を満たす場合。一度確認を受ければ毎年の申出が不要 |
| 通常新規・本登録(法第3条第1項) | 無制限 | 高(2,000〜3,000万円) | 年10回 | 大量流通予定で、フルセットの試験データを提出。審査に約4ヶ月 |
数量の根拠は政令にあります。少量新規の1トンは化審法施行令第3条第2項、低生産量新規の10トンは同令第4条第1項が定めています。
数量枠は全国の事業者で分け合う
注意が必要なのは、少量新規・低生産量新規の数量制限は1社あたりの上限ではなく、日本全国の事業者の合計枠であるという点です。
同じ受付回の中で全国からの申出合計が上限(1トンまたは10トン)を超過した場合、国による数量の調整(配分カット)が行われます。この調整では、受付期間内に用途証明書などの根拠書類が正確に揃っているかが優先的に評価されます。
年度の後半の回になるほど残りの枠が少なくなります。年度初めの早い受付回を狙い、根拠書類を完全な状態で提出することが、自社のビジネスを止めないための要点になります。
PLCを選ぶと審査期間と秘匿性で有利になる
目的とする化合物がPLC(低懸念高分子)にあたる場合、通常の新規届出に比べ審査期間が大幅に短縮されます(約1ヶ月で完了)。
さらに、通常届出では判定後5年で物質名が官報公示されるのに対し、PLCは制度上、物質名が公示されません。他社への技術流出を防げる秘匿メリットがあります。一度確認を受ければ毎年の申出も不要なため、長期的な運用コスト・工数を抑えられます。

中間物・閉鎖系等・輸出専用品として使う場合は、第3条第1項第4号の事前確認という選択肢もあります。

少量新規・低生産量新規の申出手順

実際の申出手続きで失敗しないための流れを整理します。令和8年度(2026年)からの変更点にも注意が必要です。
- 事前準備:認証IDと必要書類
- 認証ID:令和8年度第4回以降の電子申出ではGビズID(プライムまたはメンバー)が必要となり、申出者コードは利用できなくなります。令和8年度からは申出者コードの新規発行も行われないため、早めの取得をお勧めします。
- 書類:用途証明書(PDF)、構造式ファイル(MOLファイル)等
- 申出書の作成:zipファイルの出力
- システムに情報を入力し、用途証明書等を取り込んで「申出データ(zip)」を出力します。
- 申出書の提出:e-Govの操作
- 受付期間内にe-Govからzipファイルを1つだけ添付して送信します。
不備を防ぐチェックポイント
物質の名称や構造式の一文字の違いが審査の停滞を招きます。次の点に注意が必要です。
- 記号の使い分け:「-(ハイフン)」「ー(長音)」「―(ダッシュ)」の正確な区別
- 成分比・分子量の整合性:合計が100になっているか、論理的に一貫しているか
- 構造式(MOLファイル):ChemDraw、MarvinJS、BIOVIA Drawなどの指定ソフトを使用し、余計なデータが含まれていないか
- 受付コードの年度更新:前年度データを流用した際、受付コード内の年度(西暦下2桁)を更新し忘れていないか
- ファイル改変の禁止:システムから出力したzipファイルの名前を書き換えたり、中身を直接編集したりしていないか
特例制度は毎年度の申出が必要

少量新規や低生産量新規の特例は、一度枠を確保したら終わりではありません。低生産量新規について、化審法第5条第4項は「毎年度、あらかじめ」申し出て確認を受けることができると定めています。少量新規も一の年度ごとの数量を対象とする制度です。
つまり翌年度以降も製造・輸入を続ける場合は、毎年同じ手続きを繰り返して枠を取り直す必要があります。
実務上、担当者の異動や日々の業務の多忙によって翌年の申出期間を逃し、その年度の事業が止まってしまうトラブルが起きています。毎年の期日管理と申出実務を外部へ委託する企業が増えているのは、このためです。
よくある質問
制度の選択と他法令との関係でご質問の多い点をまとめます。
Q. 化審法の少量新規と安衛法の少量新規は何が違いますか。
数量の考え方が根本的に異なります。化審法の少量新規は、一の年度の製造・輸入予定数量が1トン以下であることが要件です(法第3条第1項第5号・施行令第3条第2項)。この1トンは全国の事業者で分け合う合計枠です。
一方、安衛法の少量新規は、一の事業場における一年間の製造量・輸入量が100キログラム以下であることが要件です(法第57条の4第1項ただし書・施行令第18条の4)。こちらは事業場ごとの枠で、他社の申出量に影響されません。
両法は別制度のため、1つの物質について両方の手続きが必要になる場合があります。
Q. 新規化学物質かどうかは、どうやって確認しますか。
既存化学物質名簿や公示済みの化学物質に該当しないかを確認します。NITEのデータベース「J-CHECK」で名称や構造から検索できます。ただし判断が難しいのは、既存物質と構造が似ているものの同一とは言い切れないケースです。官報公示整理番号の有無、塩や水和物の扱い、ポリマーの単量体構成などで判断が分かれることがあります。判定に迷う場合は、届出前に確認しておくことをお勧めします。
Q. 試験研究のために少量だけ輸入する場合も届出が必要ですか。
試験研究のために製造・輸入する場合は、化審法第3条第1項第2号により届出の対象外です。ただし試験研究の範囲を超えて製品開発や販売に転用する段階では、通常どおり届出または特例の申出が必要になります。研究用として輸入したものをそのままサンプル配布に回すといった運用は、対象外の範囲を超える可能性があります。
Q. 少量新規の枠が配分カットされた場合、どうなりますか。
申出た数量から減らされた数量での確認となるため、予定していた製造・輸入量を確保できません。次の受付回で再度申し出ることになりますが、その回も枠が埋まっていれば同じことが起こりえます。年度初めの早い回に、用途証明書などの根拠書類を完全な形で提出しておくことが、配分カットを避ける最も確実な方法になります。
当事務所の強み:元化学メーカー研究員の行政書士による専門的サポート

化学物質管理において、当事務所は法務と化学の架け橋として機能します。
- 理系専門職としての構造特定:元化学メーカー研究員の知見を活かし、MOLファイルの作成やIUPAC名称の精査に対応します
- 低懸念高分子(PLC)該当性の判断:物理化学的安定性などの解釈を整理し、技術秘匿とコストダウンの両立を図ります
- 行政手続きの代行:e-Gov申請や令和8年度のGビズID移行に伴う実務、毎年の実績報告まで一貫して対応します

構造式と想定用途、年間の想定数量。この3つがわかれば、どの制度を使えるかを絞り込めます。開発中の物質でも構いません。


