ものづくり補助金 令和8年度の変更点と採択戦略|3枠の特徴・申請要件を解説
※本記事は執筆当時の情報に基づきます。法改正等により現在の内容と異なる場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の法令をご確認ください。
「ものづくり補助金に申請したが不採択だった」という声を、中小企業の社長から聞くことがあります。
令和8年度から「ものづくり補助金」と「中小企業新事業進出促進補助金」が統合され、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金として再スタートしました。
補助金名の変更にとどまらず、申請枠の構造・要件・審査の観点が大きく変わっています。
旧制度の情報をもとに申請書を作ると、要件を満たさずに不採択になるリスクがあります。
製造業・サービス業・IT業など幅広い業種に対応しており、設備投資・新サービス開発・海外展開に活用できる制度です。
この記事では、令和8年度の新制度を整理し、採択率を上げるための申請戦略を解説します。
旧ものづくり補助金からの主な変更点
令和8年度から制度が大幅に再編されました。旧制度の知識で申請を進めると要件を満たさないケースがあるため、変更点を先に確認しておくことを推奨します。最新の公募情報は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公式サイトでご確認ください。
| 項目 | 旧ものづくり補助金 | 令和8年度新制度 |
|---|---|---|
| 制度名 | ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 | 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 |
| 申請枠 | 製品・サービス高付加価値化枠・グローバル枠(第23次時点) | 革新的新製品・サービス枠・新事業進出枠・グローバル枠 |
| 付加価値額要件 | 年率3.0%以上 | 年率4.0%以上 |
| ワークライフバランス要件(一般事業主行動計画) | 従業員21名以上のみ必須 | 全事業者に適用拡大 |
| 子育て環境整備要件 | なし | 新設(くるみん認定等で免除) |
| 建物費 | 対象外 | 新事業進出枠・グローバル枠で対象 |
3つの申請枠と補助上限額

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(以下「本補助金」)は、中小企業等の生産性向上と賃上げを後押しする制度です。
令和8年度から「ものづくり補助金」と「中小企業新事業進出促進補助金」が統合され、3つの枠に再編されました。
申請する枠によって補助上限額・補助率・対象経費・事業実施期間が異なります。
革新的新製品・サービス枠
革新的な新製品・新サービスの開発に取り組む事業者が対象です。
既存製品・サービスの改善・向上は対象外となります。「自社にとって新しい製品やサービスの開発」であることが求められます。
補助率は中小企業者1/2(地域別最低賃金引上げ特例時2/3)、小規模企業者・再生事業者は2/3です。
補助下限額は100万円。補助上限額は従業員数によって異なります。
- 従業員数1〜5人:750万円(賃上げ特例時850万円)
- 従業員数6〜20人:1,000万円(1,250万円)
- 従業員数21〜50人:1,500万円(2,500万円)
- 従業員数51人以上:2,500万円(3,500万円)
賃上げ特例を適用して括弧内の上限額を受けるには、「一人当たり給与支給総額の年平均成長率6.0%以上」かつ「事業場内最低賃金を地域別最低賃金より50円以上高く保つこと」の両方が必要です。
補助事業実施期間は交付決定日から10か月以内(採択発表日から12か月以内)です。
新事業進出枠
既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する枠です。
「自社にとっての新規性」と「新たな市場への参入」の両方を満たすことが求められます。
補助率は中小企業者1/2(地域別最低賃金引上げ特例時2/3)。補助下限額は750万円です。
- 従業員数1〜20人:2,500万円(3,000万円)
- 従業員数21〜50人:4,000万円(5,000万円)
- 従業員数51〜100人:5,500万円(7,000万円)
- 従業員数101人以上:7,000万円(9,000万円)
補助事業実施期間は交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内)です。
グローバル枠
海外市場開拓(輸出)に向けた、国内の輸出体制強化に取り組む事業者が対象です。
補助率は中小企業者2/3と、3枠の中で最も高い水準です。
補助上限額・下限額は新事業進出枠と同額で、海外旅費・通訳翻訳費が対象経費に追加されます。
申請に必要な5つの基本要件

旧ものづくり補助金と比較して、要件が大幅に強化・追加されています。
3〜5年の事業計画期間中に、以下の要件をすべて満たす計画の策定が必要です。
付加価値額・賃上げ・最低賃金要件
3つの数値目標が求められます。そのうち2つは旧制度から引き上げられています。
- 付加価値額要件:年平均成長率4.0%以上(旧制度は3%以上)
- 賃上げ要件:一人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上(旧制度は1.5%以上)
- 最低賃金要件:事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円以上高い水準に保つこと
付加価値額は「営業利益+人件費+減価償却費」で計算します。
賃上げ要件・最低賃金要件は目標値未達の場合、補助金の一部返還義務が生じる可能性があります。
申請者自身で目標値を設定しますが、高い目標を掲げるほど審査で有利に評価される仕組みです。
ワークライフバランス要件(新設)
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定・公表していることが必要です。
公表手続きには1〜2週間程度かかります。
申請期限直前に着手すると間に合わない可能性があるため、早めの準備が重要です。
子育て環境整備要件(新設)
育児休業・短時間勤務・フレックスタイムなど、子育て環境整備に向けた取り組みの実施が必要です。
くるみん認定・プラチナくるみん認定等を取得している事業者はこの要件が免除されます。
金融機関要件
金融機関から資金提供を受けて補助事業を実施する場合は、その金融機関から事業計画の確認を受けることが必要です。
確認書の提出が求められます。自己資金のみで実施する場合は提出不要です。
補助対象経費と枠別の違い

3つの枠で共通する対象経費と、枠によって追加される経費があります。
経費の種類によって必要な証拠書類が異なるため、計画段階から確認しておくことが重要です。
全枠共通の対象経費
以下の経費はすべての枠で対象となります。
- 機械装置・システム構築費(製造装置・分析機器・ロボット等)
- 技術導入費(工業所有権の導入等)
- 専門家経費
- 運搬費
- クラウドサービス利用費
- 原材料費
- 外注費
- 知的財産権等関連経費
- 広告宣伝・販売促進費
枠別に追加される経費
新事業進出枠・グローバル枠では、共通経費に加えて建物費が対象となります。
旧ものづくり補助金では建物費が原則対象外でしたが、新制度で追加されています。
グローバル枠ではさらに海外旅費・通訳翻訳費が対象に加わります。
補助金は後払いです。先に費用を支払い、実績報告後に入金されます。資金繰りには注意が必要です。
申請枠別の投資テーマ選定

本補助金は業種を問わず申請できますが、枠ごとに審査の観点が異なります。
新事業進出枠では「新市場性・高付加価値性」、革新的新製品・サービス枠では「革新性」が主要な評価軸です。
どの枠が自社の投資計画に合うかを事前に整理しておくことが重要です。
革新的新製品・サービス枠の投資テーマ例
自社技術を活かした新製品・新サービスの開発が対象です。
既存の製品・サービスをより良くするだけでは対象外となる点に注意が必要です。
業種別のテーマ例は以下のとおりです。
- 製造業・化学工業:新素材・新製品の開発研究装置、分析機器(LC-MS・GCなど)、光学測定装置、パイロット設備
- IT・ソフトウェア業:業界特化型SaaS・IoTシステムの開発環境整備
- 食品・農業:新加工食品・機能性食品の開発設備、バイオ技術応用設備
- サービス業:これまでにない顧客体験を提供する新サービスの開発
元化学メーカー研究員として製品開発の実態を知る立場から、「自社にとっての革新性」を審査員に伝わる言葉で組み立てることが可能です。
新事業進出枠の投資テーマ例
自社が参入したことのない市場・顧客層を対象とする新事業が対象です。
「同じ製品をより多く売る」では該当せず、ターゲットとする市場が既存事業と明確に異なることが求められます。
- 製造業:既存技術を活かして異業種向け部品・製品の製造を開始する
- サービス業:これまで対象にしていなかった業種・規模・地域の顧客向けサービスを立ち上げる
- 流通・卸売業:取り扱い商材や販路を大きく転換する投資
グローバル枠の投資テーマ例
自社製品を海外市場へ自発的に展開するための国内体制整備が対象です。
取引先から輸出を求められた受け身の対応は、補助対象とならない場合がある点に注意が必要です。
- 海外向け品質基準・認証取得を見据えた製造ライン整備
- 多言語対応や海外展開に必要なECシステム・管理システムの構築
- 輸出対応の包装設備・検査設備の導入
採択率を上げる事業計画書の要点

審査員は申請者の業界の専門家とは限りません。
技術的な正確さと同時に、「なぜこの投資が必要か」「どう付加価値につながるか」を専門外の方でも理解できる言葉で書くことが求められます。
「新市場性・高付加価値性」の示し方
新事業進出枠の審査で重視される評価軸が「新市場性」と「高付加価値性」です。
- 新市場性:対象とする分野の普及度・認知度が低く、新たな需要を創出するものであること
- 高付加価値性:市場相場より高い水準の付加価値化を目指していること
性能向上・用途拡大・既存顧客への販売増加だけでは、新市場性として認められにくい点に注意が必要です。
新たな顧客層・業種・価格帯・効果の観点から「これまでと異なる市場への参入」であることを説明することが重要です。
付加価値計画の根拠を積み上げる
「年率4.0%の付加価値向上」は根拠のない数字では審査を通過しにくくなります。
設備導入後の生産能力向上・不良率低下・工数削減・受注単価の上昇などを積み上げ、営業利益の改善幅を計算します。
業種を問わず、「投資の前後でどの指標がどれだけ変わるか」を数字で示すことが評価の核心です。
賃上げ計画と付加価値計画の因果関係も明確に記述することが求められます。
「生産性が上がるから賃上げができる」という流れを数字で示すことが評価につながります。
申請前に知っておくべき要点

補助金は「採択されて終わり」ではありません。
ルール違反による経費の対象外や入金待ちによる資金ショートを防ぐため、計画段階から押さえておくべき要点を解説します。
GビズIDと一般事業主行動計画の早期準備
本補助金の申請にはGビズIDプライムアカウントの取得が必要です。
取得手続きには1週間程度かかるため、公募開始後にあわてないよう早めの準備が重要です。
また、一般事業主行動計画の策定・公表にも1〜2週間程度かかります。
公募第1回の締切は令和8年9月30日(18:00厳守)です。
これらの手続きは申請期限から逆算して早めに着手することを推奨します。

加点を活かすための認定取得
本補助金の審査では、以下の加点項目が設けられています。
加点項目はすべて申請締切日時点で要件を満たしている必要があります。
- パートナーシップ構築宣言:ポータルサイトで宣言を公表している事業者(令和8年1月1日以降更新のひな形が対象。無料・オンラインで手続き可能)
- くるみん認定:トライくるみん・くるみん・プラチナくるみんのいずれかの認定(子育て環境整備の基本要件免除にも活用できます)
- えるぼし認定:女性活躍推進法に基づく認定(えるぼし1〜3段階またはプラチナえるぼし)
- 健康経営優良法人2026:認定を受けている事業者
- 経営革新計画承認:申請締切日時点で有効な承認を受けている事業者
- 事業継続力強化計画(BCP認定):申請締切日時点で有効な計画認定(連携型も対象)
- DX認定:申請締切日時点で有効なDX認定を取得している事業者
- 研究開発費・試験研究費の計上:申請締切前期までに会計上の研究開発費または税務上の試験研究費を計上・推進している事業者
補助金申請と並行して取得できる認定については、準備期間を逆算して早めに着手することを推奨します。


補助金は後払い・資金ショートのリスク
補助金は設備購入・支払いを先に済ませ、実績報告後に入金される仕組みです。
採択から入金まで1年以上かかるケースも珍しくありません。
手元資金が薄い場合は「つなぎ融資」の活用が有効です。

よくある質問
Q. 旧ものづくり補助金との主な違いは何ですか?
A. 令和8年度から「ものづくり補助金」と「中小企業新事業進出促進補助金」が統合され、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」として再スタートしました。3枠(革新的新製品・サービス枠・新事業進出枠・グローバル枠)に再編されており、申請要件も変更されています。付加価値額の年率目標が3.0%→4.0%に引き上げられたほか、一般事業主行動計画の公表が全事業者に義務化(旧制度は従業員21名以上のみ)、子育て支援への取り組みも新たに追加されています。
Q. 補助率は何%ですか?
A. 枠と事業者規模によって異なります。革新的新製品・サービス枠は中小企業者1/2(地域別最低賃金引上げ特例適用時2/3)、小規模企業者・再生事業者は2/3です。新事業進出枠も中小企業者1/2(特例適用時2/3)です。グローバル枠は中小企業者2/3と、3枠の中で最も高い補助率が設定されています。
Q. 不採択だった場合、再申請はできますか?
A. 再申請は可能です。事業計画書のどこが弱かったかを分析し、次の公募回で改善して再申請するケースは多くあります。
Q. 過去に関連補助金の交付決定を受けたことがあります。申請できますか?
A. 応募申請日を起点として過去3年間に、事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金・新事業進出・ものづくり補助金の交付決定を合計2回以上受けている事業者は申請対象外となります。また、申請締切日(令和8年9月30日)から直近16か月以内に採択を受けて補助事業を実施中の事業者も申請対象外です。交付決定が合計1回のみの場合は申請自体は可能ですが、審査で減点となります。不採択は回数にカウントされません。
当事務所の強み:事業計画書の作成から採択後まで一貫対応
- 「新市場性・高付加価値性」の言語化支援: 元化学メーカー研究員として製品開発・設備投資の実務を経験した立場から、審査員に伝わる事業計画書を組み立てます。技術・製品の強みをわかりやすい言葉に置き換える作業を一貫して対応します。
- FPの財務知見による採算・賃上げ計画の設計: FPとしての財務分析能力で、付加価値向上計画・賃上げ計画の数値的な根拠づけをサポートします。採択後の交付申請・実績報告まで対応します。
- 新要件への対応支援: 一般事業主行動計画の早期準備から、経営革新計画等の認定取得との並行支援まで対応します。製造業・サービス業・IT業など業種を問わず相談を受け付けています。
現在お持ちの設備投資計画を一度お聞かせください。申請の可能性を整理します。


