事業承継と遺言|中小企業社長が遺言書で決めておくべきこと

事業承継と遺言|中小企業社長が遺言書で決めておくべきこと

「後継者は決まっているが、万が一のときに会社をどう守るか、まだ何も書いていない」という状態でも、遺言書で決めておけることがあります。製造業・化学品メーカーでは、自社株・工場設備・特許・取引先との信頼関係など、後継者に集中して引き継がせたい資産があります。

遺言書がないまま経営者が亡くなると、自社株は遺産分割が終わるまで相続人の共有になり、会社の手続きが止まりやすくなります。自社株が複数の相続人に分散した場合、議決権も分散し、経営判断が停滞するリスクがあります。製造業の実態を知る行政書士の立場から、事業承継と遺言書の関係を解説します。

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遺言書がないと何が起きるか

経営者が遺言書を残さずに亡くなった場合、相続財産は法定相続人全員で遺産分割協議を行うことになります(民法第907条)。

自社株が分散するリスク:配偶者・子ども全員が法定相続人になります。後継者に自社株を集中させたくても、他の相続人の同意なしには実現しません。相続人が感情的な対立を抱えている場合、協議が長期化します。

会社の手続きが止まるリスク:遺産分割が終わるまで、自社株は相続人全員の共有になります。共有の株式は、共有者が権利を行使する者を1人定めて会社に通知しなければ、議決権などを行使できません(会社法第106条。会社が同意した場合を除く)。その間も株主総会や役員の変更登記は必要になるため、意思決定が止まりやすくなります。

事業継続そのものへのダメージ:相続をきっかけに経営体制が決まらない期間が生じると、取引先・金融機関との関係にも影響しうる点に注意が必要です。

遺言書で決めておくべき事項

事業承継を見据えた遺言書に盛り込むべき内容を、優先度の高い順に整理します。

自社株の承継先の明記

自社株をすべて後継者に承継させることを、遺言書に明確に記載します。「○○株式会社の株式全部を長男○○に相続させる」という形です。

遺言書があれば、遺産分割協議を経ずに株主名義を変更できます。遺言執行者を指定しておけば、執行者が手続きを進めます。

遺留分への対応

自社株を後継者に集中させると、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分とは、配偶者・子・直系尊属に法律上保障された最低限の相続分です(民法第1042条)。

遺留分侵害額請求を受けた場合、後継者は現金で遺留分相当額を支払う義務が生じます。自社株の評価額が高い企業では、この支払いが後継者の資金繰りを圧迫することがあります。

対応策として次の方法が考えられます。

他の相続人に渡す財産の指定:後継者が自社株を取得する代わりに、他の相続人には預貯金・不動産を相続させる内容を遺言書に盛り込みます。

生命保険の活用:経営者を被保険者とする生命保険を活用し、死亡保険金で遺留分相当額の原資を確保します。生命保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象外です(ただし特別受益の問題が生じるケースもあります)。

​経営承継円滑化法の遺留分の特例

遺留分の特例(生前贈与と組み合わせる場合):経営承継円滑化法には、経営者から後継者へ生前に贈与した自社株を遺留分の計算から外す「除外合意」と、価額を合意時点で固定する「固定合意」があります(同法第4条)。推定相続人と後継者の全員の書面による合意、経済産業大臣の確認(第7条)、家庭裁判所の許可(第8条)が必要です。遺言だけでは使えない仕組みなので、後述の生前の承継計画とあわせて検討します。

事業承継税制:一定の要件を満たす場合、非上場株式等の相続税・贈与税の納税を猶予する制度があります。適用には都道府県知事の認定などが必要で、要件は細かく定められています。詳細は税理士にご確認ください。

工場・設備・不動産の承継先

工場の土地・建物が個人名義の場合、これも相続財産になります。後継者が会社を経営するために必要な物件が他の相続人に相続されると、後継者は工場を借り続けるか買い取る必要が生じます。

「会社が使用する不動産は後継者に相続させる」または「会社に遺贈する」旨を遺言書に明記することで、このリスクに備えられます。ただし、他の相続人の遺留分(民法第1042条)を侵害する場合は、遺留分侵害額請求(同法第1046条)を受けることがあります。

代表取締役の選任に関する指示

遺言で法的な効力を持たせられる事項は法律で決まっており、代表取締役の選任を遺言で決めることはできません。後継者に託す理由や家族への思いは、付言事項として書き添えることができます。付言事項に法的な拘束力はありませんが、相続人の納得を得る助けになります。

役員の選任は株主総会の決議事項であるため、自社株を後継者に集中させることが有効と考えられます。

事業に関係しない財産の分配

配偶者・後継者以外の子への配慮も重要です。自社株・工場を後継者に集中させる代わりに、個人の預貯金・保険・不動産を他の相続人に分配する設計をします。

全体のバランスを取ることで、遺留分侵害額請求を受ける可能性を下げられると考えられます。

遺言書を作るタイミング

遺言は、遺言をする時に能力がなければ作れません(民法第963条)。「まだ早い」と感じるうちに準備するのが望ましいと考えられます。

健康で判断能力に問題のないうちに作成した公正証書遺言は、公証人と証人2人が関与して作成するため、方式の不備で無効になるおそれは低くなります。遺言はいつでも書き直せるので(民法第1022条)、状況が変わったら改めれば足ります。

特に次のタイミングは遺言書作成の契機として検討してください。

  • 後継者が決まったとき
  • 重要な設備投資・工場の新設・移転のとき
  • M&Aや株式譲渡の検討を始めたとき
  • 持病が見つかったとき

事業承継計画との組み合わせ

遺言書は「万が一のための備え」ですが、生前の事業承継計画(後継者への段階的な株式移転・経営権の移譲)と組み合わせることで、より確実な承継が実現します。

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生前贈与・株式の段階的移転・事業承継税制の活用など、税理士と連携しながら総合的な計画を設計することをお勧めします。

よくある質問

後継者が決まっていない場合でも遺言書を作るべきですか?

作っておくことをおすすめします。後継者が決まっていない段階では、自社株の当面の承継先(配偶者など)を決めておき、後継者が決まった時点で遺言を書き直す方法があります。何も決めないまま亡くなるよりも、株式の分散を防げます。

公正証書遺言と自筆証書遺言、どちらが事業承継向きですか?

公正証書遺言をおすすめします。自社株の帰属を定めた遺言書が無効になると、株式の分散がそのまま起こります。公正証書遺言は方式の不備で無効になるおそれが低く、検認も不要です。遺言執行者の指定も同時に行えます。

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事業承継税制と遺言書は一緒に使えますか?

併用できます。事業承継税制(相続税の納税猶予)は、一定の要件のもとで後継者が相続・遺贈で取得した自社株の相続税を猶予する制度です。遺言で株式を後継者に集めておくと、適用を受ける株式の取得がスムーズになります。都道府県知事の認定(経営承継円滑化法第12条)の要件や期限は細かく定められているため、詳細は税理士にご確認ください。

当事務所の強み:製造業・化学メーカーの事業承継に精通した支援

事業承継を見据えた遺言は、当事務所が遺言内容の設計から公正証書遺言の作成までお引き受けします。

元化学メーカー研究員として製造業の現場を知り、FPの財務知識と行政書士業務を組み合わせた総合的な事業承継支援を行います。遺留分への配慮・資金計画・遺言書の設計から、公証役場での作成・遺言執行者への就任まで一貫して対応します。個別の自社株評価・相続税の計算が必要な場合は税理士にご相談ください。

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  • 事業承継を見据えた遺言内容の設計支援
  • 公正証書遺言の作成(公証役場との調整・証人手配含む)
  • 遺言執行者への就任
  • 税理士・司法書士との連携による総合サポート

報酬の目安とご依頼の流れは、次のページにまとめています。

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