大気汚染防止法 ばい煙発生施設の届出|対象規模と60日前ルール
※本記事は執筆当時の情報に基づきます。法改正等により現在の内容と異なる場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の法令をご確認ください。
ボイラーや乾燥炉、塗装施設など、大気中に排気を行う設備を導入する際には、大気汚染防止法や各都道府県の条例に基づく事前届出が必要になるケースがあります。
届出が受理された日から60日を経過するまでは、施設を設置できません(法第10条第1項)。この「実施の制限」があるため、設備の導入は計画段階からスケジュールに余裕を持たせる必要があります。
対象施設の判定から届出手続き、稼働後の義務までを整理します。
大気汚染防止法で届出が必要な施設

大気汚染防止法において、設置や構造変更の際に事前届出が義務付けられている主な施設は、次の5つに分類されます。
- ばい煙発生施設:燃料の燃焼に伴う硫黄酸化物・ばいじんや、有害物質(カドミウム、鉛、窒素酸化物など)を発生する施設(例:一定規模のボイラー、加熱炉、金属溶解炉、乾燥炉、廃棄物焼却炉など)
- 揮発性有機化合物(VOC)排出施設:トルエンやキシレンなどのVOCを多量に排出する施設(例:大規模な化学製品製造用・接着・印刷用の乾燥施設、吹付塗装施設、工業用洗浄施設など)
- 一般粉じん発生施設:物の破砕や選別、堆積に伴って一般粉じんを発生・飛散させる施設(例:コークス炉、一定規模以上のコンベア、破砕機、面積1,000㎡以上の鉱物堆積場など)
- 特定粉じん発生施設:石綿(アスベスト)など、健康被害を生ずるおそれがある特定粉じんを発生・飛散させる施設
- 水銀排出施設:「水銀に関する水俣条約」に基づき、大気中に水銀等を排出する施設
このうち最も該当例が多いのがばい煙発生施設です。法第6条第1項は、ばい煙を大気中に排出する者がばい煙発生施設を設置しようとするときは、都道府県知事に届け出なければならないと定めています。
ばい煙発生施設の規模要件(ボイラー・加熱炉ほか)
ばい煙発生施設の種類と規模は、施行令別表第一が33項目にわたって定めています。設備があれば直ちに対象になるわけではなく、規模要件を満たすものだけが届出の対象です。
| 施設 | 規模要件(施行令別表第一) |
|---|---|
| ボイラー(熱風ボイラーを含む。熱源として電気または廃熱のみを使用するものを除く) | 燃料の燃焼能力が重油換算1時間当たり50リットル以上 |
| 水性ガス・油ガスの発生に使うガス発生炉および加熱炉 | 石炭・コークスの処理能力が1日20トン以上、またはバーナーの燃料の燃焼能力が重油換算1時間当たり50リットル以上 |
| 金属の精錬・無機化学工業品の製造に使う焙焼炉・焼結炉・煆焼炉 | 原料の処理能力が1時間1トン以上 |
ボイラーで判定を誤りやすいのは「電気式・廃熱利用のみ」の除外規定です。電気ボイラーは燃料を燃焼させないため、ばい煙発生施設には該当しません。導入予定機種の熱源方式と燃焼能力を、仕様書で確認してください。
「特定施設」という用語との違い
「大気汚染防止法の特定施設」という言い方を目にすることがありますが、注意が必要です。
大気汚染防止法にも「特定施設」という用語は存在します。ただしこれは、法第17条(事故時の措置)が定める概念です。
同条にいう特定物質とは、物の合成・分解その他の化学的処理に伴い発生する物質のうち、人の健康または生活環境に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいいます。特定施設は、この特定物質を発生する施設のうち、ばい煙発生施設を除いたものと定義されています。
つまり大気汚染防止法の「特定施設」は事故時の措置に関する用語であり、設置届出の対象を指すものではありません。設置届出が必要なのは、前掲のばい煙発生施設などです。
なお、水質汚濁防止法・騒音規制法・振動規制法では「特定施設」が設置届出の対象を指す用語として使われています。法令ごとに意味が異なるため、どの法律の話をしているかを確認する必要があります。

自治体条例による上乗せ規制
国の法律の規模要件を満たさなくても、条例の対象になる場合があります。大阪府域に工場がある場合、「大阪府生活環境の保全等に関する条例」に基づく「有害物質に係る届出施設」に該当する可能性があります。
主な届出対象施設(いずれも定められた規模要件を満たすもの)は次のとおりです。
- 製品製造業の施設:焙焼炉、電気炉、乾燥炉、溶融炉、電気めっき施設、洗浄施設など
- 廃棄物焼却炉:用途を問わず一定規模以上のもの
- 医療業・消毒業の施設:一定規模以上の滅菌・消毒施設
- 洗濯業の施設:一定規模のドライクリーニング施設・乾燥施設など
- 塗装施設:排風機の能力が100㎥/分以上の吹付塗装施設など
実験用、移動式、特定の物質のみを排出する施設など、一部に例外規定があります。規模要件が細かいため、事前の確認を推奨します。
炉・ボイラー・乾燥設備などを設置する場合は、大気汚染防止法の届出とは別に、各市区町村の火災予防条例に基づく届出が必要になるケースもあります。大阪市では火災予防条例第57条に基づく届出(設置予定日の5日前まで)が消防署への手続きとして別途必要です。

設置届出の手続きと60日前ルール

新たに施設を設置したり、構造を変更したりする際の手続きを整理します。施設の種類によって着手までの待機期間が異なる点が要点です。
届出時期と実施の制限
- ばい煙発生施設・VOC排出施設:設置工事着手予定日の60日前までに届出が必要です。法第10条第1項により、届出が受理された日から60日を経過した後でなければ施設を設置できません。ただし、届出に係る事項の内容が相当と認められる場合、都道府県知事はこの期間を短縮できます(同条第2項)。実務では「期間短縮願」を提出して対応します。
- 一般粉じん発生施設:設置工事の着手前までに届出が必要です。実施の制限(待機期間)はなく、期間短縮願の提出も不要です。
60日は「工事着手の60日前」ではなく「届出が受理された日から60日」で起算されます。書類の不備で受理が遅れれば、その分だけ着工も後ろにずれます。
届出事項と必要書類
法第6条第1項が定める届出事項は、次の6項目です。
- 氏名または名称および住所(法人はその代表者の氏名)
- 工場または事業場の名称および所在地
- ばい煙発生施設の種類
- ばい煙発生施設の構造
- ばい煙発生施設の使用の方法
- ばい煙の処理の方法
大阪市を例にすると、提出先は事業場が所在する区を担当する環境保全監視グループ、提出部数は2通(正本1通、写し1通)です。主な添付書類は次のとおりです。
- 届出書および別紙(構造、使用方法、処理方法などを記載)
- 工場・事業場内の平面図
- 施設の構造概要図(主要寸法入り)
- 排出物の処理施設(煙突、集じん機など)の構造概要図
- 代表者以外が手続きする場合は委任状
- (ばい煙・VOC施設の場合)期間短縮願
届出後に事業者が負う義務

施設の設置後も、事業者には継続的な義務が課されます。届出で完了する手続きではありません。
排出基準の遵守
法第13条第1項は、ばい煙発生施設において発生するばい煙を大気中に排出する者に対し、ばい煙量またはばい煙濃度が排出口において排出基準に適合しないばい煙を排出してはならないと定めています。
基準に適合しないばい煙を継続して排出するおそれがある場合はどうなるか。都道府県知事は、改善命令または使用の一時停止命令を出すことができます(法第14条第1項)。
一般粉じん発生施設については、構造・使用・管理に関する基準(散水や防じんカバーなど)の遵守が求められます。騒音・振動を伴う設備を同時に導入する場合は、騒音規制法・振動規制法の特定施設にも該当しないか確認が必要です。

測定と記録の保存
ばい煙やVOCを排出する施設では、定められた頻度で排出濃度を測定し、その記録を3年間保存する義務があります。
変更・廃止・承継の届出
| 場面 | 手続き | 期限 |
|---|---|---|
| 施設の構造・使用方法・ばい煙の処理方法の変更 | 事前の変更届出(法第8条第1項) | ばい煙等は工事着手の60日前まで、一般粉じんは着手前まで |
| 氏名・名称・住所の変更、施設の使用廃止 | 事後の届出(法第11条) | その日から30日以内 |
| 譲受け・借受け・相続・合併・分割による承継 | 承継の届出(法第12条) | 承継後 |
法第12条第1項により、届出をした者から施設を譲り受け、または借り受けた者は、届出をした者の地位を承継します。相続・合併・分割の場合も同様です。施設を引き継いだ側が新規に届出をやり直す必要はありませんが、承継の届出は必要です。
事故時の措置
法第17条は、ばい煙発生施設または特定施設について故障・破損その他の事故が発生し、ばい煙または特定物質が大気中に多量に排出されたときは、直ちに応急の措置を講じ、その事故について都道府県知事へ通報することを義務づけています。
よくある質問
対象判定と手続きでご質問の多い点をまとめます。
Q. 電気ボイラーを導入する場合も届出が必要ですか。
施行令別表第一第1項は、ボイラーのうち「熱源として電気または廃熱のみを使用するもの」を対象から除いています。電気ボイラーは燃料を燃焼させないため、ばい煙発生施設には該当しません。ただし条例による上乗せ規制や、消防法・火災予防条例に基づく届出が別途必要になる場合があります。大気汚染防止法の対象外であることと、他法令の届出が不要であることは別の話です。
Q. 「大気汚染防止法の特定施設」を調べていますが、届出の対象はどれですか。
設置届出の対象は「ばい煙発生施設」です。大気汚染防止法にも「特定施設」という用語はありますが、法第17条(事故時の措置)で用いられる概念です。特定物質を発生する施設のうち、ばい煙発生施設を除いたものを指します。設置届出の対象を示す用語ではありません。「特定施設」を設置届出の対象として使うのは、水質汚濁防止法・騒音規制法・振動規制法です。
Q. 60日を待たずに工事に着手する方法はありますか。
法第10条第2項により、届出に係る事項の内容が相当であると都道府県知事が認めるときは、60日の期間を短縮できます。実務では「期間短縮願」を届出とあわせて提出します。ただし短縮が認められるかは行政の判断であり、確実に短縮できる前提でスケジュールを組むのは避けたほうが安全です。
Q. 既存施設が法改正で新たに届出対象になった場合はどうなりますか。
政令改正により対象施設の種類や規模要件が変わることがあります。すでに設置している施設が新たに対象となった場合は、経過措置に従った届出が求められます。施行日と届出期限は改正ごとに定められるため、所管の都道府県・政令市の窓口で確認してください。
当事務所の強み:技術書類の作成から窓口対応まで
大気汚染防止法の届出でハードルが高いのは、書類の記入よりも「施設の構造概要図」や「工場内の平面図・排気系統」を正確に作成し、行政窓口の担当官へ技術的な説明を行うことです。
元化学メーカー研究員として製造工程と排気・集じん設備に関わった経験から、仕様書を読み解いたうえで行政が求める技術的書類を作成し、窓口対応まで対応します。
- ばい煙発生施設・VOC排出施設の設置届出、変更・廃止・承継の届出
- 構造概要図・排気系統図など技術書類の作成
- 条例に基づく届出との並行対応
- 排ガス処理設備の導入・ボイラー更新に使える補助金の選定と申請
設備の仕様書と排気系統図があれば、届出の要否と60日の起算日を確定できます。導入機種を選定している段階でも構いません。


