火を使用する設備等の設置届|厨房350kW・給湯70kWの基準
※本記事は執筆当時の情報に基づきます。法改正等により現在の内容と異なる場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の法令をご確認ください。
業務用の厨房設備を大型化した、工場に乾燥炉を新設した、ボイラーを更新した。こうした場面で見落とされやすい消防手続きが「火を使用する設備等の設置(変更)届出」です。
防火対象物使用開始届や危険物施設の許可申請は知られている一方で、この届出の存在を知らないまま設備を稼働させてしまうケースは少なくありません。消防署の立入検査で指摘を受ける可能性があります。
対象は炉・温風暖房機・厨房設備・ボイラー・乾燥設備・サウナ設備・ヒートポンプ冷暖房機・火花を生ずる設備・放電加工機など多岐にわたります。飲食店・ホテル・工場・医療施設・スポーツ施設など、業種を問わず広く適用される届出です。
火を使用する設備等の設置届とは
火を使用する設備等の設置(変更)届出とは、火災の発生のおそれがある設備を設置・変更する前に、あらかじめ消防機関へ届け出る手続きです。
根拠は消防法第9条にあります。同条は、火を使用する設備の位置・構造・管理などについて「政令で定める基準に従い市町村条例でこれを定める」としています。これを受けて消防法施行令第5条が条例制定基準(対象火気設備等の基準)を定め、実際の届出義務は各市町村の火災予防条例に置かれる構造です。
届出の対象設備と規模の基準は市町村の条例で定まるため、事業所の所在地によって細部が異なります。本記事では大阪市火災予防条例第57条を例に整理します。他の自治体では、所在地の火災予防条例で対象設備と閾値を確認してください。
届出対象設備と規模の基準一覧
条例は対象設備を号ごとに列挙し、一部に規模の下限を設けています。自社が設置・変更しようとしている設備がどこに該当するかを、次の表で確認してください。
| 設備 | 条例の号 | 届出が必要になる規模 |
|---|---|---|
| 温風暖房機 | 第1号 | 風道を使用するもの(風道を使用しないものは劇場等・キャバレー等に限る) |
| 炉(多量の可燃性ガス・蒸気を発生するもの) | 第2号 | 種類・規模を問わず対象 |
| 炉(上記以外) | 第3号 | 据付面積2㎡以上(個人の住居を除く) |
| 厨房設備 | 第3号の2 | 同一厨房室内の合計入力350kW以上 |
| ボイラー | 第4号 | 原則対象(個人の住居、安衛法施行令第1条第3号のボイラーを除く) |
| 給湯湯沸設備 | 第4号 | 入力70kWを超えるもの |
| 乾燥設備 | 第5号 | 個人の住居以外に設けるもの(規模の下限なし) |
| サウナ設備 | 第6号 | 個人の住居以外に設けるもの |
| 内燃機関によるヒートポンプ冷暖房機 | 第6号の2 | 入力70kWを超えるもの(電動式は対象外) |
| 火花を生ずる設備 | 第7号 | グラインダー・研磨機・切断機等 |
| 放電加工機 | 第7号の2 | 対象 |
| 高圧・特別高圧の変電設備 | 第8号 | 全出力50kW以上 |
| 急速充電設備 | 第8号の2 | 全出力50kWを超えるもの |
| 燃料電池発電設備 | 第8号の3 | 一定の小型設備(条例第9条の2の2第3項・第5項)は除外 |
| 内燃機関発電設備 | 第9号 | 固定して用いるもの(可搬式は対象外) |
| 蓄電池設備 | 第10号 | 蓄電池容量20kWhを超えるもの |
| ネオン管灯設備 | 第11号 | 設備容量2kVA以上 |
| 水素ガスを充塡する気球 | 第12号 | 対象(届出期限は3日前まで) |
飲食業・宿泊業で多い設備の届出基準

飲食店・ホテル・病院・スポーツ施設など、いわゆる一般業種で届出が必要になるケースをまとめます。
厨房設備は同一厨房室の合計入力350kW以上
同一厨房室内の厨房設備の入力の合計が350kW以上になる場合が対象です(第3号の2)。業務用ガスレンジ・フライヤー・スチームコンベクション等を合算して判定します。
1台で350kWを超えることは通常ありません。複数台を組み合わせた厨房全体の合計入力で閾値に達するケースに注意が必要です。
給湯湯沸設備は入力70kW超・ボイラーは原則対象
ボイラーは原則として届出の対象になります。給湯湯沸設備は入力70kWを超えるものが対象です(いずれも第4号)。
個人の住居に設けるもの、および労働安全衛生法施行令第1条第3号に定めるボイラーは、届出の対象外です。
サウナ設備・温風暖房機
サウナ設備(第6号)は、簡易サウナ・一般サウナを問わず、個人の住居以外に設けるものが届出の対象です。スポーツジム・温浴施設・旅館・ゴルフ場などが該当します。
温風暖房機(第1号)は、風道(ダクト)を使用するものが対象です。風道を使用しない温風暖房機は、劇場等またはキャバレー等に設けるものに限り対象になります。
工場・製造業で多い設備の届出基準

製造プロセスに使用する設備で届出が必要になるケースです。炉と乾燥設備は判定を誤りやすい区分になります。
炉は据付面積2㎡以上・可燃性ガス発生炉は規模不問
炉は2つの区分に分かれます。多量の可燃性ガスまたは蒸気を発生する炉(第2号)は、種類・規模を問わず対象です。それ以外の炉(第3号)は、据付面積2㎡以上のものが対象になります(個人の住居を除く)。
鉄鋼溶解炉・熱風炉・電気炉・焼成炉などが典型例です。名称に「炉」が付かない加熱装置でも、火を使用して物を加熱・溶解する設備であれば該当を確認する必要があります。
乾燥設備は規模の下限がない
乾燥設備(第5号)は、個人の住居以外に設けるものが対象です。入力・処理能力による下限区分は条例上設けられていないため、小規模なものも届出の対象になりえます。
食品乾燥・塗装乾燥・溶剤乾燥など、用途を問わず確認が必要です。「小型だから不要」という判断はできません。
火花を生ずる設備・放電加工機
火花を生ずる設備(第7号)は、使用に際して火花を生じるグラインダー・研磨機・切断機等が対象です。放電加工機(第7号の2)は、電気的なスパークを利用して金属を加工する設備(EDM)が対象になります。
内燃機関によるヒートポンプ冷暖房機は入力70kW超
内燃機関を使用するヒートポンプ冷暖房機のうち、入力が70kWを超えるものが対象です(第6号の2)。電動式のヒートポンプは対象外になります。
電気・エネルギー設備の届出基準
近年、蓄電池・急速充電設備・燃料電池の設置が増えています。これらも届出対象に含まれます。
- 高圧・特別高圧の変電設備(第8号):全出力50kW以上のものが対象(50kW未満は除外)
- 急速充電設備(第8号の2):全出力が50kWを超えるものが対象。EV充電ステーションを施設内に設置する場合に該当します
- 燃料電池発電設備(第8号の3):一定の小型設備(条例第9条の2の2第3項・第5項に定めるもの)は除外
- 内燃機関発電設備(第9号):固定して用いるものが対象(可搬式は対象外)
- 蓄電池設備(第10号):蓄電池容量が20kWhを超えるものが対象
- ネオン管灯設備(第11号):設備容量が2kVA以上のものが対象。飲食店・ホテルの看板照明で見られます
- 水素ガスを充塡する気球(第12号):届出期限が他と異なり3日前までです
届出の手続きと期限

届出先・期限・必要書類をまとめます。期限が短いため、設備の着工前に書類を整えるスケジュール管理が重要になります。
届出先と5日前までの期限
届出先は所管消防署です(大阪市では消防長宛)。大阪市では電子申請(大阪市行政オンラインシステム)にも対応しています。
届出期限は、設置または変更予定日の5日前までです(水素ガスを充塡する気球のみ3日前まで)。防火対象物使用開始届の7日前とは期限が異なるため、混同しないよう注意してください。
設備の設置後では期限を満たせません。工事日程が確定したら、早めに書類の準備を始めることを推奨します。
届出書類と記載事項
届出に必要な書類は次のとおりです。
- 火を使用する設備等の設置(変更)届出書(第5号様式)
- 設備の配置図
- 仕様書等の設計図書
届出書には、設備の種類・着工(予定)年月日・しゅん工(予定)年月日・使用する燃料・熱源・加工液の種類と使用量・安全装置の内容・取扱責任者氏名を記載します。記載しきれない事項は別紙を添付します。
変更時の届出
設備の内容を変更する場合も、あらかじめ届出が必要です(条例第57条後段)。同型機への入れ替えでも、設置場所・入力・燃料種別などに変更が生じれば変更届出が必要になることがあります。判断に迷う場合は所管消防署に確認してください。
届出の代行を依頼する場合の注意
届出書類の作成・提出は、事業者本人が行う分には問題ありません。一方、設備メーカーやコンサルタントが届出書類の作成・提出を代行することは、行政書士法第19条が定める業務制限に抵触する可能性があります。
この制限は報酬の名目を問いません。届出手数料として別途請求する場合はもちろん、設備販売・工事費用に含める形で実質的に対価を得ている場合も対象になりえます。表向き無償としている場合も、業として書類作成を行っていると判断される可能性があります。書類作成の代行を依頼する場合は、行政書士に依頼することが適切です。

他の消防手続きとの関係
火を使用する設備の届出は、他の消防手続きと重なる場面があります。開業・設備増設のタイミングでは複数の手続きを並行して進めることが多く、スケジュールを事前に整理しておくことを推奨します。
新たに建物に入居・使用開始する場合は、この届出とは別に防火対象物使用開始届が必要です(期限は使用開始の7日前まで)。両方の届出が必要な場合は、7日前の期限に合わせて準備を進めると5日前の期限にも余裕をもって対応できます。

一定規模以上の防火対象物では、消防計画の作成・届出および防火管理者の選任も別途必要です。

ボイラーを導入する場合は、火を使用する設備の届出(消防署)に加えて、大気汚染防止法に基づく届出(都道府県等)が必要になるケースがあります。大気汚染防止法施行令別表第1に定める「ばい煙発生施設」に該当する規模のボイラーは、設置の60日前までに届出が必要です。1台の設備導入でも届出先・期限が異なる手続きが重なるため、早めに確認することを推奨します。

工場で設備を増設する場合は、消防法以外にも水質汚濁防止法・大気汚染防止法・高圧ガス保安法など複数の法令が関係するケースがあります。

よくある質問
届出要否の判定でご質問の多い点をまとめます。
Q. 給湯器のカタログが「号」表示です。70kWの基準はどう判定しますか。
条例の基準は入力(kW)で定められているため、カタログや仕様書の「入力」「ガス消費量」欄の数値で判定します。号数は1分間あたりの出湯能力を示す指標で、入力とは異なる値です。号数から換算した数値で判断すると、判定を誤るおそれがあります。仕様書に入力の記載が見当たらない場合は、メーカーに入力値を確認してください。
Q. 消防法上の「炉」とは何を指しますか。
条例第57条は炉を2つに分けています。多量の可燃性ガスまたは蒸気を発生する炉(第2号)は種類・規模を問わず対象、それ以外の炉(第3号)は据付面積2㎡以上が対象です。鉄鋼溶解炉・熱風炉・電気炉・焼成炉などが該当します。火を使用して物を加熱・溶解・焼成する設備が広く含まれるため、装置名に「炉」が付くかどうかでは判断できません。
Q. 開業時に防火対象物使用開始届を提出しましたが、この届出も別途必要ですか。
原則として必要です。防火対象物使用開始届と火を使用する設備等の設置届は、根拠条文・届出対象が異なる独立した手続きです。業務用厨房設備(合計入力350kW以上)やボイラーを設置する飲食店・旅館等では、使用開始届とは別に第5号様式での届出が必要になります。
Q. 設備を同機種に入れ替える(更新)場合も届出が必要ですか。
設備内容を変更する場合は届出が必要とされています(条例第57条後段)。同機種への入れ替えでも、設置場所・入力・燃料種別に変更が生じる場合は変更届出が必要になる可能性があります。「更新だから不要」と判断せず、所管消防署に確認することを推奨します。
Q. 複数台の厨房設備を段階的に増設する予定です。350kWの判定はどの時点で行いますか。
同一厨房室内の設備の合計入力が350kW以上になる設置の時点で届出が必要とされています。段階的に増設して合計が閾値を超える場合は、超えることになる設備を設置するタイミングで届出が必要になる可能性があります。全体の導入計画がある場合は、あらかじめ所管消防署に相談しておくことを推奨します。
当事務所の強み:設備の仕様から届出要否を診断
「この設備は届出が必要か」という判断は、設備の入力・据付面積・燃料の種類・設置場所(屋内外)を組み合わせて行います。メーカーのカタログや仕様書があれば、条例の閾値と照らし合わせて届出要否を確認できます。
元化学メーカー研究員として研究開発の現場で設備に関わってきた経験から、仕様書・カタログの技術情報を読み解いたうえで、届出書類に正確に反映します。
- 火を使用する設備等の設置(変更)届出書の作成代行(飲食店・工場・医療施設・旅館等、業種不問)
- 防火対象物使用開始届・消防計画との並行対応(開業前の消防手続きをまとめて整理)
- 少量危険物届出・指定可燃物届出・高圧ガス届出など他法令とのセット対応
カタログの入力値さえわかれば、届出の要否は判定できます。設備の選定中でもご連絡ください。


