PRTR届出の実務手順|対象物質の特定・排出量の算出と提出期限
※本記事は執筆当時の情報に基づきます。法改正等により現在の内容と異なる場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の法令をご確認ください。
PRTR届出は、事業所から環境へ排出した化学物質の量を、毎年度国に報告する制度です。対象となる事業者には、前年度の排出量・移動量を把握して届け出る義務が毎年継続して発生します。
「対象事業者かどうかはわかった。でも実際の届出の手順がわからない」という声は少なくありません。特に難しいのが排出量の算出です。現場のプロセスを確認しないと正確な数字を出しにくいため、担当者の負担が大きくなりやすい業務です。
元化学メーカー研究員として化学物質を取り扱ってきた経験から、対象物質の特定から届出書の提出までを整理します。
PRTR届出とは

PRTR届出とは、化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)に基づき、第一種指定化学物質の排出量・移動量を届け出る手続きをいいます。
法第5条は、事業者に2段階の義務を課しています。
- 第1項:事業活動に伴う第一種指定化学物質の排出量および移動量を、主務省令で定める方法により把握する義務
- 第2項:第一種指定化学物質および事業所ごとに、毎年度、前年度の排出量・移動量に関する事項を主務大臣へ届け出る義務
つまり、日々の把握と年1回の届出がセットになった制度です。届出だけを年に一度こなす運用では、算出の根拠が残らず対応が難しくなります。
届出の対象と内容
- 届出対象物質:第一種指定化学物質(政令で指定。最新の物質リストは経済産業省・環境省のホームページで確認)
- 届出内容:大気・水域・土壌への排出量、廃棄物としての移動量
- 届出方法:電子届出(排出移動量届出システム)が標準
対象事業者かどうかは、業種・従業員数・取扱量の3要件で判定します。判定方法は別記事で詳しく解説しています。

届出先と提出期限
届出先は主務大臣です。実務上は、事業所の所在地を管轄する都道府県知事を経由して提出します。
提出期限は毎年度6月30日までで、様式第一による届出書を提出します(施行規則第5条)。災害その他やむを得ない事由により期限までの提出が困難な場合には、期限の延長が認められる定めもあります。
対象物質は政令で定められるため、政令改正により追加・削除されることがあります。前年度に対象外だった物質が対象に加わっている場合もあるため、年度ごとに最新の物質リストと自社の取扱物質を突き合わせる必要があります。
届出の実務手順

届出作業は「物質の特定→量の算出→書類の作成・提出」の順で進めます。それぞれの段階でつまずきやすい点を確認します。
ステップ1:対象物質の特定
SDS(安全データシート)や原材料仕様書を確認し、取り扱う化学物質の中に第一種指定化学物質が含まれているかを確認します。
- SDSの「成分情報」セクションを確認する
- 各成分のCAS番号または成分名を、NITE化学物質管理センター等で公開されている物質リストと照合する
- 取扱量(製造量・使用量)が年間1トン以上の物質を特定する(特定第一種指定化学物質は年間0.5トン以上)
製造工程の複数の中間体・製品に同一の対象物質が含まれる場合は、すべての工程を横断して取扱量を集計します。

ステップ2:排出量・移動量の算出
排出量の算出方法は、施行規則第2条が定めています。実務で用いられるのは主に次の3種類です。
- 排出係数法:物質の取扱量に排出係数を掛け算する。主務大臣が公表する排出係数表を使用します
- 実測値法:測定装置で実際に排出量を測定します
- 物質収支法:投入量と、製品・廃棄物への移行量の差分で算出します
排出係数法が最も簡便です。ただし現場の製造条件(温度・封じ込め率等)を踏まえて係数を選ぶ必要があります。実際の排出状況を過大にも過少にも算出しないことが重要です。
ステップ3:届出書の作成と提出
環境省・経産省が運営する排出移動量届出システムを使って電子届出を行います。
- 届出システムへのログイン(GビズIDまたは届出用ID)
- 物質ごとに排出量・移動量の数値を入力
- 内容確認・電子署名
- 6月30日までに送信
紙届出も認められていますが、電子届出のほうが集計・修正がしやすい面があります。
物質名を公表したくない場合の対応
PRTR届出の情報は、開示請求の対象になります。使用している物質の名称から生産方法が推測されることを懸念する事業者のために、化管法は例外的な取扱いを用意しています。
法第6条第1項が定めるのは、営業秘密に該当する場合の特例です。届出に係る第一種指定化学物質の取扱いに関する情報が、秘密として管理されている生産方法その他の事業活動に有用な技術上の情報であって、公然と知られていないものに該当する場合が対象になります。この場合、物質の名称に代えて「対応化学物質分類名」で通知するよう主務大臣に請求できます。
この請求は、届出と併せて、理由を付して行う必要があります(同条第2項)。届出そのものを省略できる制度ではない点に注意が必要です。
届出後の対応
届出の内容に誤りが判明した場合は、修正届出の提出が必要です。
翌年度の届出に向けて、年間を通じて排出量の記録・集計を継続しておくことをお勧めします。法第5条第1項が求めているのは年1回の作業ではなく、継続的な「把握」だからです。年度末にまとめて算出しようとすると、根拠となる稼働記録が残っていないという事態が起こりえます。
よくある質問
対象判定と算出の実務でご質問の多い点をまとめます。
Q. 取扱量が要件を下回った年は届出不要ですか。
その年度の取扱量が要件(年間1トン未満等)を下回った場合、届出義務は発生しません。ただし翌年度に取扱量が再び要件を超えた場合は届出義務が復活します。年度ごとに対象確認を行う必要があります。
Q. 算出方法を年度ごとに変更してよいですか。
年度ごとに異なる算出方法を選択することは、原則として認められています。ただし算出方法を変更した場合は届出書にその旨を記載します。一貫性のある算出方法を継続することが望ましいとされています。
Q. 過去の届出に算出ミスがあった場合はどうなりますか。
修正届出書を提出する必要があります。重大な過少申告は行政指導の対象となる可能性があります。気づいた時点で速やかに修正届出を行うことをお勧めします。
Q. 提出期限の6月30日を過ぎてしまった場合はどうすればよいですか。
期限を過ぎても届出義務がなくなるわけではありません。速やかに提出してください。施行規則第5条は、災害その他やむを得ない事由により期限までの提出が困難な場合の期限延長を定めていますが、社内の準備不足はこれに当たりません。翌年度に向けては、対象物質の特定と算出方法の選定を年度内に済ませ、6月は入力作業だけで終わる状態にしておくと余裕が生まれます。
当事務所の強み
元化学メーカー研究員として化学物質を取り扱ってきた経験から、SDSを照合しながら対象物質の特定・算出方法の選定・届出書作成まで一貫して対応します。
- 第一種指定化学物質の該当確認(SDS照合)
- 排出量・移動量の算出支援
- 届出書の作成・電子提出代行
SDSと年間の取扱量一覧があれば、対象物質の特定まで進められます。算出方法の選定はそのあとで構いません。


