SDS作成・更新義務のポイント|改正安衛法・新JIS規格への実務対応
※本記事は執筆当時の情報に基づきます。法改正等により現在の内容と異なる場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の法令をご確認ください。
かつて化学メーカーの研究員として、複雑な混合物のSDS(安全データシート)作成に関わってきた立場から言うと、SDSとGHSラベルの作成・運用は、研究開発の手を止めてしまう労力のかかる業務です。
しかし2026年4月、労働安全衛生法(安衛法)の改正が施行され、SDSの交付義務違反に対する罰則規定が設けられました。義務対象物質も約2,900物質まで拡大されています。「うちの化学品は従来から対象外だった」という認識が、現在は通用しないケースが増えています。
さらに、JIS規格(JIS Z 7252/7253)も2025年12月に改訂されており、作成済みのSDSについても最新規格への準拠が求められています。対応の遅れは、罰則リスクに加え、取引先からのコンプライアンス基準未達による契約解除にもつながります。
改正安衛法の要点(2026年4月施行済み)
近年、日本の化学物質管理は従来の「個別規制型管理」から、事業者が自らリスクを評価・対策する「自律的な管理」へと方針転換しました(2022年政省令改正)。2025年5月には労働安全衛生法(安衛法)自体が改正・公布され、2026年4月に施行されています。現場で対応が必要な実務要点は次の3点です。

- 義務対象物質の拡大(安衛法第57条・第57条の2)
- ラベル表示・SDS交付の対象物質は、2026年4月の拡大完了により合計で約2,900物質となりました。従来「対象外」として扱っていた物質についても、改めて確認が必要です
- SDS更新・通知義務と罰則の新設
- 記載内容に変更が生じた際の再通知が義務化されました。また、SDSの交付・通知義務違反に対して明確な罰則規定が設けられています。常に最新の科学的知見を反映したSDSを維持する体制が必要です
- リスクアセスメントとの連動(安衛法第57条の3)
- SDSは単なる参考資料ではなく、リスクアセスメントを行うための法的根拠データです。SDSのデータが不正確であれば、それに基づくリスクアセスメントも無効となり、法令違反の連鎖を招きます
また、安衛法および関連規則では、事業者は通知されたSDSの内容を作業場の見やすい場所に常時掲示し、実際に物質を扱う労働者に周知させることが義務付けられています。書類をファイルに綴じて棚に置いておくだけでは、法的責任を果たしたとは言えません。

JIS Z 7252/7253:2025改訂の変更点

JIS Z 7252(化学品の分類方法)とJIS Z 7253(危険有害性情報の伝達方法)は、SDSおよびGHSラベルの作成根拠となる産業規格です。2025年12月25日に改訂された最新版(2025年版)は、国連が2021年に改訂した「GHS改訂9版」をベースとしており、旧版(2019年版)から以下の変更が行われています。
JIS Z 7252(分類方法)の主な変更
- 「加圧下化学品」「鈍性化爆発物」の新規クラス追加
- 「可燃性ガス」「爆発物」の区分・判定基準の再編(区分1Aの細分化など)
JIS Z 7253(情報伝達方法)の主な変更
- H コード(危険有害性情報)の追加・削除・割当変更
- 追加例:加圧下化学品対応のH282〜H284、爆発物対応のH209〜H211など
- 削除例:旧爆発物コード(H200〜H203、H205)
- P コード(注意書き)の追加・削除
- 追加例:P203・P236・P265・P316・P317など
- 削除例:P201・P202・P310〜P315の単独コード等
2030年(令和12年)12月24日までは旧版(2019年版)に従った対応も認められる猶予期間が設けられています。ただし、新規SDS作成時は新規格への準拠を推奨します。既存SDSについても、物質の変更や法改正に伴う更新のタイミングで新規格へ合わせていくことが現実的な対応です。
SDSの更新タイミングと有効期限
安衛法・化管法(化学物質排出把握管理促進法)では、SDSの記載内容に変更が生じた場合、速やかに最新版を再交付(再通知)することが求められています。「いつ更新すべきか」「有効期限はあるか」というのは、現場でよく出る疑問です。
更新が必要なタイミング(主な例)
- 物質の成分・組成の変更(原料切替・配合比変更など)
- GHS分類の変更(新たな有害性情報・毒性試験結果の反映)
- 法規制の変更(対象物質への新規追加・規制値の改定)
- 推奨する保護具・管理措置・応急措置の変更
- 輸送区分や保管上の注意点の変更
有効期限について
法令上、SDSに有効期限の定めはありません。しかし、古いSDSを使い続けることはリスクを高めます。化学物質のGHS分類情報は定期的に更新されており、業界の慣行として3〜5年ごとのレビューが推奨されています。対象物質が2026年の拡大で新たに追加されている場合は、改めて交付義務の有無を確認することが必要です。
SDS・WDS・GHSラベルの違い
「SDS」「WDS」「GHSラベル」は、いずれも化学品・廃棄物の安全管理に関わる書類ですが、目的と用途が異なります。混同が起きやすいため整理します。
| 書類 | 正式名称 | 役割 | 法的根拠 |
|---|---|---|---|
| SDS | 安全データシート | 化学品の危険有害性・取扱い情報を取引先・労働者に伝達 | 安衛法・化管法・毒劇法等 |
| WDS | 廃棄物データシート | 産業廃棄物の性状・成分情報を処理業者に提供 | 法定義務ではないが委託基準上実質必須 |
| GHSラベル | 危険有害性情報ラベル | 化学品の容器・包装にGHSに基づく絵表示や注意書きを表示 | 安衛法・化管法等 |
SDSは化学品の供給時に、WDSは産業廃棄物の委託処理時に使用します。産廃の処理委託で「元のSDSを添付するだけ」で済ませている場合、WDSに記載すべき廃棄物固有の情報(廃棄物としての性状・PRTR対象物質の有無など)が不足するリスクがあります。

未対応が招く法的・経営リスク

「法改正を知らなかった」という主張は、行政指導の場では通用しません。コンプライアンス上の不備は、直接的な罰則以上に、取引停止や社会的信用の失墜という取り返しのつかない実害をもたらします。
- 行政指導・操業停止リスク:労働基準監督署による是正勧告。改善が見られない場合、使用停止命令等による操業停止に直結します
- 刑事罰と両罰規定(安衛法第119条・第122条等):SDSの交付義務・通知義務違反に対し、拘禁刑や罰金刑が科されます。「両罰規定」により、違反した担当者だけでなく法人そのものにも罰金刑が科されます
- 民事賠償と社会的リスク:虚偽記載や古いSDSが原因で労働災害が発生した場合、安全配慮義務違反として賠償額が増大するリスクがあります。また、取引先からのコンプライアンス基準未達を理由とした契約解除も想定されます
よくある質問
Q. 2026年4月の物質拡大で、自社の製品が新たにSDS交付義務の対象になりましたか?
A. 物質ごとに確認が必要です。拡大後の対象物質リストは厚生労働省・経済産業省・環境省が公表しています。元化学メーカー研究員の知見を活かし、自社取扱物質の該非判定から対応をサポートします。
Q. SDSの有効期限はいつまでですか?
A. 法令上の有効期限はありませんが、記載内容に変更が生じた時点で速やかに更新・再交付することが義務です。変更がなくても、3〜5年ごとのレビューが業界の慣行として推奨されています。
Q. SDSがあればWDSは不要ですか?
A. 用途が異なるため、代替にはなりません。SDSは化学品の供給時に使用するもので、産廃を委託処理に出す際はWDS(廃棄物データシート)として廃棄物固有の性状情報を別途提供する必要があります。特にPRTR対象物質が含まれる廃棄物は、WDSへの記載が事実上必須です。
当事務所の強み:元化学研究員による専門的支援

元化学研究員として、自ら開発した複雑な組成物のSDS作成に多数携わってきました。その経験から、次の3点を強みとして提供しています。
- 物質の素性を見抜く知見:化学物質の物理化学的性質を単なる文献データの転記ではなく、物質の挙動として理解し、潜在的リスクを的確に抽出します
- 現場の苦労を知る実効的なSDS作成:サプライヤーから届くSDSの成分が「非公開」だったり、GHS分類が「分類できない」で埋められている場合の補完方法まで、研究職時代に直面した現場経験を活かして対応します
- 化学物質管理のワンストップ支援:SDS作成を起点に、化学物質リスクアセスメントの実施支援・化管法(PRTR)の届出・新規化学物質の届出も一括してサポートします
対応が必要な物質のリストがあれば、優先度の整理からサポートします。まずは現状をお知らせください。

