化学兵器禁止法の届出|指定物質・有機化学物質の対象判定と期限

化学兵器禁止法の届出|指定物質・有機化学物質の対象判定と期限

「化学兵器とは無縁の会社なのに、届出が必要なのか」。化学兵器禁止法(化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律)の届出は、兵器とは関係のない一般の化学品にもかかります。

対象は、三塩化リン・塩化チオニル・トリエタノールアミンのような工業薬品や試薬、さらに合成で作る有機化学物質の一部です。製造・使用・輸出入のどれかで一定の量や濃度を超えると、毎年の届出が必要になります。化学兵器を作っていなくても、扱う物質と量によって届出の義務が生じます(経済産業省「届出・申告事業者のためのQ&A」A1-1)。

化学メーカー・試薬メーカー・受託合成会社の方に向けて、自社が対象かを判断するための材料と、届出の期限・提出先を整理します。

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化学兵器禁止法の規制対象となる物質

化学兵器禁止法は、化学兵器禁止条約を日本で確実に実施するための法律です(法第1条)。規制の対象になる物質は、危険度に応じて3つに分かれます。

特定物質は製造・使用とも許可制

特定物質は、化学兵器に使われるおそれが特に高い物質です(法第2条第3項)。条約の「表1剤」(サリン・VXなど)に当たり(参考資料集1.1・1.3)、マスタードガスやリシンなどが施行令の別表の一の項に並びます。

特定物質を製造するには、事業所ごとに経済産業大臣の許可が必要です(法第4条第1項)。使用するにも許可が要ります(法第10条第1項)。

第一種指定物質と第二種指定物質は届出制

指定物質は、化学兵器の製造に使われるおそれがある物質です(法第2条第4項)。このうち、化学兵器以外の用途が少ないものが第一種、それ以外が第二種になります(法第2条第5項)。

区分施行令の別表主な物質の例
第一種指定物質二の項アミトン、PFIB、BZ、三塩化ヒ素、チオジグリコール、ピナコリルアルコール
第二種指定物質三の項ホスゲン、塩化シアン、シアン化水素、クロロピクリン、塩化ホスホリル、三塩化リン、五塩化リン、亜リン酸トリメチル、亜リン酸ジメチル、一塩化硫黄、二塩化硫黄、塩化チオニル、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン

正確な範囲は施行令の別表で確かめます。たとえば第一種の原料物質には「アルキル基の炭素数が三以下」といった構造の条件が付いたものがあり、名前だけでは判断しにくい場合があります。

有機化学物質・特定有機化学物質は製造量で届出

指定物質に当たらない物質でも、合成で作る有機化学物質は届出の対象になりえます(法第29条)。有機化学物質の範囲は、施行令第4条第1項が定めています。関税定率法の別表第28類・第29類・第32.04項に当たる、単一の構造式の炭素化合物などです。

製造工程に合成反応を含まないものは対象外です。発酵による製造も合成反応から除かれます(施行令第4条第2項)。経済産業省の参考資料集は、ポリマー・オリゴマーは対象に入らないと説明しています(化学兵器禁止法届出参考資料集4.2.1)。

有機化学物質のうち、りん・硫黄・ふっ素を含むものは特定有機化学物質として、より低い数量で届出の対象になります(法第29条第2項・施行令第4条第3項)。

届出が必要になる数量・濃度のしきい値

届出が要るかどうかは、物質の区分と活動(製造・使用・輸出入)ごとに決まった数量と濃度で判断します。数量は事業所ごと・物質ごとに、1月〜12月の1年で数えます。

対象届出が要る活動数量(事業所ごと・1年)濃度の条件根拠
第一種指定物質(毒性物質)製造・抽出・精製100kg超(BZは1kg超)―施行規則第16条第1項
第一種指定物質(原料物質)製造・抽出・精製1トン超―施行規則第16条第1項
第一種指定物質使用製造等と同じ数量毒性物質10%超(量が多い場合は1%超)・原料物質30%超法第26条・施行規則第18条
第二種指定物質製造30トン超―施行規則第19条第1項
指定物質(第一種・第二種)輸出・輸入しきい値なし第一種の毒性物質1%超・第一種の原料物質と第二種30%超法第28条・施行規則第21条第1項
有機化学物質製造(合成)200トン超個別に判断法第29条第1項・施行規則第22条第1項
特定有機化学物質製造(合成)30トン超個別に判断法第29条第2項・施行規則第23条第1項

数量は、混合物や溶液のままの重さではなく、含まれる物質の量(純分)に換算して数えます。50%品を10トン製造したなら、5トンとして扱います(参考資料集2.1)。有機化学物質の200トンは、事業所で製造したすべての有機化学物質の合計です(参考資料集2.3)。

「使用」とは、混合・溶解・希釈のような物理的な工程を加えることや、化学反応で別の物質に変えることを指します(施行規則第18条第2項)。第二種指定物質の使用は、届出の対象になっていません(法第27条は製造だけを準用)。

見落としやすい届出のケース

自社が対象だと気づかずに届出が漏れやすい場面があります。とくに次の3つは、担当者の感覚と法律の数え方がずれやすいところです。

少量の輸入でも届出が必要になる

指定物質の輸出入には数量のしきい値がなく、少量でも実績の届出が必要です(経済産業省「指定物質の輸出入実績の届出期限について」令和7年12月)。三塩化リンや塩化チオニルの試薬を海外から輸入した場合も、濃度が30%を超えていれば対象になります。

届出の義務を負うのは、通関で輸出者・輸入者になった事業者です。商社を通して仕入れた工場ではなく、輸入した商社が届け出ます。工場が自ら輸入者になった場合は、工場が届け出ます(同お知らせ)。

相談者
相談者

うちは試薬を少し輸入しているだけで、化学兵器とは無縁です。届出は関係ないですよね?

行政書士
行政書士

指定物質を輸入した場合は、量が少なくても実績の届出が要ります。輸出入には数量のしきい値がないためです。

相談者
相談者

商社から買っているものも、うちが届け出るのでしょうか。

行政書士
行政書士

通関で輸入者になったのが商社なら、届け出るのは商社です。自社の名義で輸入したものが対象になります。

反応の途中で一時的にできる物質も製造に数える

指定物質を工程の途中で一時的に生成させることも、法律上は「製造」に含まれます(法第2条第7項)。最終製品が別の物質でも、中間体として指定物質ができる工程は対象になりえます。

参考資料集は、指定物質の製造量を「製造施設内で最大に存在するところの量」としています(参考資料集4.1.1)。

有機化学物質は事業所の合計で数える

有機化学物質の200トンは、1つの物質ではなく事業所の合計で判断します。1品目は少量でも、合成品を多く手がける事業所では合計が200トンを超えることがあります。

一方で、有機化学物質の製造量の数え方は指定物質と異なります。施設から運び出すときの量で数え、施設内の中間体は原則として数えません(参考資料集4.2.3)。2つの数え方を混同しないよう注意が必要です。

このように、対象かどうかは最終製品の名前ではなく「どの工程で何ができているか」で決まる場面があります。当事務所の代表は、化学メーカーの研究員として基礎研究からスケールアップまで携わってきました。

ご相談の際に、扱う物質名と工程のおおよそ、輸入の名義を伺えば、どの届出が関係しそうかを一緒に整理できます。届出が必要と分かった場合は、届出書と添付書類の作成までお引き受けします。

予定届出・実績届出の期限と提出先

指定物質は、翌年の予定と前年の実績の両方を届け出ます。有機化学物質と輸出入は、前年の実績だけを届け出ます。

2月末日まで
★前年1月〜12月の実績届出(指定物質の製造等・使用、有機化学物質、輸出入)
9月30日まで
★翌年1月〜12月の予定届出(第一種・第二種指定物質)
年の途中
予定届出をしていない物質がしきい値を超えそうなときは、超える日の30日前まで
予定の変更
予定の2倍を超えるなどの場合は、その30日前まで

予定届出の期限は施行規則第16条第3項(第二種は第19条第3項)、実績届出は第17条第2項・第20条第2項・第21条第2項・第22条第3項・第23条第3項が定めています。期限の日が土日祝日に当たるときは翌日までです(経済産業省「届出・申告関係」のページ)。

第一種指定物質は、前3年のいずれかの年にしきい値を超えていれば、翌年に予定がなくても予定届出が必要です(法第24条第3項)。第二種は、この「前3年」が「前年」に読み替えられます(法第27条)。製造をやめた翌年も届出が続く場合がある点に注意してください。

提出先とe-Govでの電子届出

提出先は届出の種類で分かれます(経済産業省「届出・申告関係」のページ)。

届出提出先
指定物質の製造等・使用の予定・実績、有機化学物質の製造実績事業所の所在地を管轄する経済産業局(経済産業大臣あて)
指定物質の輸出入実績経済産業省 化学兵器・麻薬原料等規制対策室

提出は​e-Govの電子申請が勧められています。経済産業省が配る電子申請ファイル(Excel形式)に入力し、添付書類のPDFと一緒に送ります。初めて電子申請をするときは、経済産業省の化学兵器・麻薬原料等規制対策室へメールで申し出て、化学兵器禁止法専用の個別認証IDと仮のパスワードを受け取ります。e-Govへのログインには、GビズID・e-Govのアカウント・Microsoftアカウントのいずれかが要り、電子証明書は要りません(経済産業省「電子申請マニュアル」2026年6月19日改訂)。

届出は事業所ごとに行い、本社で複数の事業所分をまとめて1通にはできません(Q&A A1-5)。製造の予定・実績の届出には、設備の位置を示す図面と製造工程の説明書も付けます(施行規則第16条第3項・第19条第3項など)。代表者以外の人が届け出るときは、代表者から届出の権限を任されたことを示す委任状を添えます(参考資料集4.3.3)。

様式・電子申請ファイル・しきい値の資料は、​経済産業省の届出・申告関係のページにまとまっています。

届出をしなかった場合の罰則と国際検査

実績届出や輸出入の届出をしなかったり、虚偽の届出をしたりすると、30万円以下の罰金の対象になります(法第45条第1号)。会社の業務で違反した場合は、担当者に加えて会社にも罰金が科される可能性があります(法第46条)。

特定物質を許可なく製造した場合は、3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方です(法第43条第1号)。

届出の内容は、外務省を通じて化学兵器禁止機関(OPCW)に申告されます(Q&A A1-9)。申告された事業所には、OPCWの査察員による国際検査が入ることがあり、受け入れる義務があります(法第30条・参考資料集1.2)。経済産業省によれば、国内での国際検査は年間20回程度です(Q&A はじめに)。

国際検査は、申告した内容が正しいかを確かめるものです。参考資料集も、届け出る製造量は記録で証明できるようにしておく必要があるとしています。届出の段階から、数量の根拠をそろえておくと安心です。

よくある質問

化学兵器禁止法の届出でよく聞かれる点をまとめます。

化審法の届出をしている物質でも、化学兵器禁止法の届出は必要ですか。

必要になる場合があります。化審法と化学兵器禁止法は別の法律で、届出の対象も数え方も異なります。化学兵器禁止法は1月〜12月の1年で、事業所ごとに数量を数えます。化審法の手続きを済ませていても、指定物質や有機化学物質に当たれば別に届け出ます。

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研究所で試薬として少量を使うだけでも届出は必要ですか。

使用の届出が要るのは第一種指定物質だけです。製造と同じ数量(毒性物質100kg超、原料物質1トン超など)を超え、混合物なら濃度の条件にも当たる場合が対象です(法第26条・施行規則第16条第1項・第18条)。第二種指定物質の使用は届出の対象外です。ただし、自社の名義で輸入した場合は、使用量とは別に輸入の実績届出が必要になる点に注意が必要です。

過去の届出漏れや誤りに気づいた場合はどうすればよいですか。

経済産業省は、間違いが分かったら速やかに管轄の経済産業局へ連絡するよう求めています。軽微な違反なら修正で足りる一方、悪質な場合は罰金の対象になりうるとしています(Q&A A1-7)。届出が漏れていた年と物質を整理したうえで、早めに相談することを推奨します。

予定届出をした後、製造量が予定より大きく増えそうです。

予定の2倍を超える場合や、第一種でしきい値の10倍、第二種で200トンを超える場合は、超える日の30日前までに変更の届出が必要です(施行規則第16条第4項・第5項、第19条第4項・第5項)。生産計画が変わった時点で確かめておくと、期限に間に合います。

当事務所の強み:化学の現場を知る行政書士による届出の支援

化学兵器禁止法の届出は、当事務所が対象の判断から届出書の作成までお引き受けします。

  • 物質と工程からの対象判断:元化学メーカー研究員として、施行令の別表の構造の条件や、工程の途中でできる中間体まで確かめます
  • 数量の整理:純分換算や事業所ごとの集計、有機化学物質と指定物質の数え方の違いを踏まえて、届け出る数量を整理します
  • 毎年の届出の段取り:2月末日の実績届出と9月30日の予定届出を、年間の予定として組み立てます。化審法など関係するほかの届出も、あわせて確かめます

なお、外為法の輸出管理(該非判定・輸出許可)は、当事務所の業務の範囲に含めていません。

報酬の目安とご依頼の流れは、次のページにまとめています。

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予定届出の締切は毎年9月30日です。対象になりそうだと気づいた時点で、ご連絡ください。

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