安衛法 化学物質の自律管理|2022年改正で製造業に求められる新しい義務
※本記事は執筆当時の情報に基づきます。法改正等により現在の内容と異なる場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の法令をご確認ください。
「うちは特化則(特定化学物質障害予防規則)の対象物質を使っていないから関係ない」と思っていませんか。2022年(令和4年)の労働安全衛生法改正は、そうした認識を根本から変える内容でした。
改正の核心は、規制当局が物質ごとに細かく規制を定める従来の方式から、事業者自身がリスクアセスメントに基づいて化学物質を管理する「自律管理」へのシフトです。元化学メーカー研究員としてSDS作成や廃液管理を実務で経験した行政書士の立場から、改正のポイントを解説します。
2022年改正の背景と全体像


日本では約700万種の化学物質が流通しているとされます。しかし労働安全衛生法の規制対象は、2022年改正前の時点で約670物質(特化則・有機則等の規定物質)にとどまっていました。
つまり、規制対象外の物質による労働災害が相次いでいたのが実態です。そこで厚生労働省は、規制当局主導の物質別規制から、事業者自身が科学的根拠に基づいてリスクを評価・管理する方式へ転換しました。これが「自律管理」の考え方です(安衛法第28条の2の趣旨を発展させたもの)。
主な改正内容と施行スケジュール

改正内容は段階的に施行されています。製造業で特に影響が大きいポイントを整理します。
SDS・ラベルの対象拡大と記載精緻化
安衛法第57条(ラベル表示)・第57条の2(SDS交付)の対象物質が大幅に拡大されました。従来の約670物質から、GHS分類で危険有害性が認められたほぼすべての物質へと広がっています。
SDS(安全データシート)の記載事項にも変更があり、成分含有量の記載精度の向上や、譲渡・提供時の通知義務が強化されました。SDSの作成方法はこちら
リスクアセスメントの義務化対象拡大
安衛法第28条の2では、事業者がすべての化学物質について危険性・有害性を調査することを努力義務としています。今回の改正では、SDS交付義務のある物質(通知対象物質)については、リスクアセスメントの実施が義務になりました。
つまり「SDS対象物質を取り扱っているなら、リスクアセスメントを実施しなければならない」という整理です。

化学物質管理者の選任義務
リスクアセスメント対象物質(通知対象物質)を取り扱う事業場では、化学物質管理者の選任が義務づけられました。
化学物質管理者は、SDSの確認・リスクアセスメントの実施・ラベルの確認・作業手順の整備などを統括する役割を担います。外部委託ではなく、事業場内の者を選任する必要があります。
保護具着用管理責任者の選任義務
リスクアセスメントの結果、保護具(防毒マスク・保護手袋等)の使用が必要と判断された事業場では、保護具着用管理責任者の選任も義務になりました。
保護具の適切な選定・使用・点検・交換を管理します。
自律管理で事業者がやるべきこと


改正後の実務的な対応ステップを整理します。
ステップ1:取り扱い物質のリストアップ
自社で製造・取り扱うすべての化学物質について、SDSが必要かどうかを確認します。原材料・洗浄剤・潤滑剤・塗料・溶剤など、工程で使うすべての薬品が対象です。
ステップ2:SDSの入手・確認
仕入れ先からSDSを入手し、危険有害性(第2セクション:危険有害性の要約)・取扱い注意事項(第7セクション)・暴露防止措置(第8セクション)を確認します。
ステップ3:リスクアセスメントの実施
ばく露可能性と危険有害性の程度からリスクを評価し、ランク付けします。厚生労働省が提供する「コントロール・バンディング」や「CREATE-SIMPLE」ツールを活用できます。
ステップ4:リスク低減措置の実施と記録
工学的対策(局所排気・密閉化)・管理的対策(作業手順の整備)・保護具使用の優先順位でリスク低減措置を実施します。実施内容の記録と保存が義務です。
見落としやすいポイント

安衛法の自律管理は、特化則等の既存規制の「上乗せ」ではなく「代替」としての性格も持ちます。つまり、特化則対象物質であっても、事業者がリスクアセスメントに基づく代替管理措置が有効だと認定(許可)されれば、特化則の個別規制の一部から外れることが可能になっています。
この「許可制の見直し」は、製造プロセスを自由に設計しやすくなる反面、事業者側の管理水準が問われることを意味します。
よくある質問
Q. 小規模な工場でも化学物質管理者の選任は必要ですか?
A. 通知対象物質(SDS交付義務のある物質)を取り扱う事業場であれば、規模にかかわらず選任が義務です。ただし専任である必要はなく、他の業務と兼任できます。また1人の者が複数の事業場の化学物質管理者を兼任することは原則として認められていません。
Q. SDSが入手できない物質はどう扱えばいいですか?
A. 仕入れ先にSDS提供を求めてください。GHSに基づく分類結果が危険有害性なし(全セクション「該当なし」)でも、その分類根拠を示したSDS(またはそれに相当する書類)の提供を求めることが適切です。自社判断でのリスクアセスメント実施が難しい場合は専門家への相談をご検討ください。
Q. PRTR届出(化管法)との関係は?
A. 安衛法の自律管理とPRTR制度(化管法)は別の法律に基づく別の義務です。ただし対象物質が重複するものも多く、SDS・リスクアセスメントの体制整備がPRTR届出の精度向上にもつながります。

当事務所の強み:化学の専門知識と法律をつなぐ支援
- 化学メーカー研究職の経験により、GHS分類・SDS読解・化学物質の危険有害性評価を実務レベルで対応
- 安衛法届出・化審法届出・PRTR届出をワンストップでサポート
- SDS作成支援から法令対応体制の整備まで対応

「改正対応をどこから始めればいいかわからない」という段階からご相談ください。
