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化学物質リスクアセスメントの実施手順|製造業が取り組む義務と5ステップ

「SDSは業者からもらっているが、リスクアセスメントはまだ手をつけていない」という製造現場は少なくありません。しかし、リスクアセスメントは努力義務ではなく、一定の化学物質を取り扱う事業者に課された法律上の義務です(労働安全衛生法第57条の3)。

2022年の安衛法改正で化学物質の管理体制が大きく見直され、2024年4月以降は自律的な管理(リスクアセスメントに基づく対策)がより明確に求められています。「やらなければならないのはわかるが、何から手をつければいいかわからない」という状態が最も危険です。

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元化学メーカー研究員として化学物質を日常的に取り扱い、SDS読解と危険性判定を実務として経験した立場から、製造業がすぐに着手できる手順を解説します。

リスクアセスメントの義務対象

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リスクアセスメントの実施義務が生じるのは、安衛法第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物を製造・取り扱う業務です(安衛法第57条の3第1項)。

「第57条第1項の政令で定める物」はラベル表示義務の対象(施行令第18条)です。「通知対象物」は安衛法第57条の2が定める危険有害な化学物質を指します。化学メーカー・製造業では、原料・中間体・洗浄剤・接着剤など多くの製品が対象に含まれます。対象物質かどうかはSDSのセクション1(製品情報)で確認できます。行政機関が公開する化学物質データベースも参考になります。

リスクアセスメントの5ステップ

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厚生労働省が定める手順に沿って、5ステップで進めます。ステップ4(リスク低減措置の実施)は努力義務ですが、それ以外のステップは法律上の義務です。

参考:職場のあんぜんサイト:化学物質:化学物質のリスクアセスメント実施支援

ステップ1:危険性・有害性の特定

対象業務で使用する化学物質を洗い出し、SDSのGHS分類に基づいて危険性・有害性を特定します(安衛法第57条の3第1項)。

主な参照箇所はSDSのセクション2(危険有害性の分類)とセクション11(有害性情報)です。GHSの絵表示(炎・ドクロ・感嘆符など)で危険性の種別を素早く把握できます。発がん性(区分1以上)がある物質は特に慎重な管理が求められます。

ステップ2:リスクの見積り

特定した危険性・有害性をもとに、リスクの大きさを見積ります(安衛則第34条の2の7第2項)。

見積り方法には大きく2つのアプローチがあります。危険性については発生可能性と重篤度を組み合わせるマトリクス法・数値化法など、有害性については作業者のばく露濃度と有害性の程度を比較する方法です。厚生労働省が無償提供する「CREATE-SIMPLE」は、ばく露推定と有害性評価を一体で行えるツールです。

ステップ3:リスク低減措置の内容の検討

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見積り結果をもとに、リスクを低減する措置の内容を検討します(安衛法第57条の3第1項)。優先順位は次のとおりです。

  1. 代替(危険有害性の低い物質への切り替え、プロセス変更など)
  2. 工学的・衛生工学的対策(密閉化・局所排気装置の設置など)
  3. 管理的対策(作業手順の改善・立入禁止区域の設定など)
  4. 保護具の使用(防毒マスク・保護手袋等)

保護具は最後の手段です。上位の対策を先に検討した上で、補完的に位置づけます。

ステップ4:リスク低減措置の実施

検討した措置を速やかに実施するよう努めます(安衛法第57条の3第2項)。死亡・後遺障害のおそれがある高リスクの業務は、暫定措置を直ちに講じます。

実施後に改めてリスクを見積もることで、措置の効果を確認できます。

ステップ5:リスクアセスメント結果の労働者への周知

リスクアセスメントを実施したら、次の4項目を労働者に周知します(安衛則第34条の2の8)。

  1. 対象物の名称
  2. 対象業務の内容
  3. リスクアセスメントの結果(特定した危険有害性・見積もったリスク)
  4. 実施するリスク低減措置の内容

周知の方法は、作業場への掲示・書面の交付・電子媒体の設置のいずれかによります。周知を行っている間は、周知事項を記録・保存しておく必要があります。作業内容や取り扱い物質が変わった際は、改めてステップ1から実施します。

化学物質管理者との関係

2024年4月から義務化された化学物質管理者は、職場のリスクアセスメントを統括する役割を担います(安衛則第12条の5)。リスクアセスメントの実施・記録・周知を適切に行う体制を整える上で、管理者の選任は不可欠な要素です。

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リスクアセスメントと化学物質管理者の選任は一体で整備することで、法令対応としての実効性が高まります。

よくある質問

Q. リスクアセスメントは毎年実施する必要がありますか?

A. 毎年の定期実施は義務ではありませんが、新たな化学物質の取り扱いを開始するとき・作業方法を変更するとき・新しい有害性情報を入手したときは実施が必要です。作業内容が変わらない場合でも、定期的に内容を見直す運用が推奨されます。

Q. 小規模な製造業でも義務はありますか?

A. 事業者の規模にかかわらず、対象化学物質を製造・取り扱う業務があれば義務があります。従業員が数名の事業場でも対象です。

Q. SDSがない物質はどうすればいいですか?

A. まず取引先からSDSを入手するよう求めることが基本です。化学品を輸入している場合は、自社で日本語版SDSを作成する義務が生じる場合があります。SDS整備については改正安衛法・新JIS規格に対応する改訂のポイントも参照してください。

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当事務所の強み:化学現場を知る行政書士によるリスクアセスメント支援

元化学メーカー研究員として、有機溶剤・酸・アルカリを含む多様な化学物質を日常的に扱い、SDS読解と危険性判定を実務として経験しました。法令の文字面ではなく、実際の作業工程を踏まえた体制整備を支援します。

  • リスクアセスメント対象物質の該非確認
  • SDSに基づく危険有害性の整理・記録様式の整備
  • 化学物質管理者の選任・体制整備との一括対応
  • 安衛法届出(新規化学物質届出・PRTR届出)との組み合わせ対応

SDSは揃っているがリスクアセスメントが追いついていない状態でも対応できます。まずは現状をお聞かせください。

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行政書士
高橋 光
技術がわかる理系の行政書士。化粧品・産廃・危険物などの許認可から、化審法・安衛法など化学物質規制対応、設備投資の補助金までワンストップ支援。
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