jigyoshokei-igon-0

事業承継と遺言|中小企業社長が遺言書で決めておくべきこと

「後継者は決まっているが、万が一のときに会社をどう守るか、まだ何も書いていない」という経営者は少なくありません。特に製造業・化学品メーカーでは、自社株・工場設備・特許・取引先との信頼関係など、後継者に集中して引き継がせるべき資産が多くあります。

遺言書がないまま経営者が亡くなると、相続人全員の合意なしに会社の手続きを進めることができなくなります。自社株が複数の相続人に分散した場合、議決権も分散し、経営判断が停滞するリスクがあります。製造業の実態を知る行政書士の立場から、事業承継と遺言書の関係を解説します。

遺言書がないと何が起きるか

jigyoshokei-igon-1

経営者が遺言書を残さずに亡くなった場合、相続財産は法定相続人全員で遺産分割協議を行うことになります(民法第907条)。

自社株が分散するリスク:配偶者・子ども全員が法定相続人になります。後継者に自社株を集中させたくても、他の相続人の同意なしには実現しません。相続人が感情的な対立を抱えている場合、協議が長期化します。

会社の手続きが止まるリスク:株主名義の変更ができない間も、株主総会・役員変更登記など法律上の手続きは必要です。自社株の帰属が不明確なまま手続きを進めると、後から瑕疵を問われる可能性があります。

事業継続そのものへのダメージ:取引先・金融機関は経営の安定性を重視します。相続をきっかけに経営体制が不透明になると、与信・受注に影響が出ることがあります。

遺言書で決めておくべき事項

jigyoshokei-igon-2

事業承継を見据えた遺言書に盛り込むべき内容を、優先度の高い順に整理します。

自社株の承継先の明記

自社株をすべて後継者に承継させることを、遺言書に明確に記載します。「○○株式会社の株式全部を長男○○に相続させる」という形です。

遺言書があれば、遺産分割協議書なしに株主名義を変更できます(遺言執行者が手続きを進めます)。

遺留分への対応

jigyoshokei-igon-3

自社株を後継者に集中させると、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分とは、配偶者・子・直系尊属に法律上保障された最低限の相続分です(民法第1042条)。

遺留分侵害額請求を受けた場合、後継者は現金で遺留分相当額を支払う義務が生じます。自社株の評価額が高い企業では、この支払いが後継者の資金繰りを圧迫することがあります。

対応策として次の方法が考えられます。

代償分割の設計:後継者が自社株を取得する代わりに、他の相続人に現金・不動産を遺贈する内容を遺言書に盛り込みます。

生命保険の活用:経営者を被保険者とする生命保険を活用し、死亡保険金で遺留分相当額の原資を確保します。生命保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象外です(ただし特別受益の問題が生じるケースもあります)。

中小企業における非上場株式等の特例:一定の要件を満たす場合、事業承継税制(非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予制度)の活用によって相続税負担を抑えながら後継者に株式を集中させることができます。詳細は税理士との連携をお勧めします。

工場・設備・不動産の承継先

工場の土地・建物が個人名義の場合、これも相続財産になります。後継者が会社を経営するために必要な物件が他の相続人に相続されると、後継者は工場を借り続けるか買い取る必要が生じます。

「会社が使用する不動産は後継者に相続させる」または「会社に遺贈する」旨を遺言書に明記することで、このリスクを回避できます。

代表取締役の選任に関する指示

遺言書で会社の経営に関する具体的な業務指示を行うことは通常できません(遺言書は財産の承継について規定するものです)。ただし、遺言執行者への指示として「○○を代表取締役候補として選任するよう協力を求める」旨の付言事項を記載することで、後継者の地位を明確にすることは可能です。

役員の選任は株主総会の決議事項であるため、自社株を後継者に集中させることが根本的な解決策です。

事業に関係しない財産の分配

配偶者・後継者以外の子への配慮も重要です。自社株・工場を後継者に集中させる代わりに、個人の預貯金・保険・不動産を他の相続人に分配する設計をします。

全体のバランスを取ることで、他の相続人が遺留分侵害額請求に踏み切るリスクを下げられます。

遺言書を作るタイミング

jigyoshokei-igon-4

「まだ早い」と感じるうちが、実は最適なタイミングです。

健康で意思能力が明確なうちに作成した遺言書は、公証人・証人の確認を経た公正証書遺言であれば、その有効性を争われる余地がほとんどありません。

特に次のタイミングは遺言書作成の契機として検討してください。

  • 後継者が決まったとき
  • 重要な設備投資・工場の新設・移転のとき
  • M&Aや株式譲渡の検討を始めたとき
  • 持病が見つかったとき

事業承継計画との組み合わせ

jigyoshokei-igon-5

遺言書は「万が一のための備え」ですが、生前の事業承継計画(後継者への段階的な株式移転・経営権の移譲・経営革新計画)と組み合わせることで、より確実な承継が実現します。

関連記事
経営革新計画の承認申請|大阪府の手続きと審査のポイント
経営革新計画の承認申請|大阪府の手続きと審査のポイント

生前贈与・株式の段階的移転・事業承継税制の活用など、税理士と連携しながら総合的な計画を設計することをお勧めします。

よくある質問

jigyoshokei-igon-6

Q. 後継者が決まっていない場合でも遺言書を作るべきですか?

A. 作っておくことを推奨します。後継者未定の場合は「株式を信頼できる第三者(遺言執行者)に信託する」「一定期間内に後継者を決め、それまでは配偶者が保有する」などの設計も可能です。何も決めないまま亡くなるよりも、方向性を示しておくことが重要です。

Q. 公証証書遺言と自筆証書遺言、どちらが事業承継向きですか?

A. 公正証書遺言を強く推奨します。自社株の帰属に関する遺言書が無効になった場合のダメージは甚大です。公正証書遺言であれば無効リスクが極めて低く、遺言執行者の指定も同時に行えます(公正証書遺言の作り方)。

Q. 事業承継税制と遺言書は一緒に使えますか?

A. 使えます。事業承継税制(相続税の納税猶予)は、一定の要件のもとで後継者が自社株を相続した場合の相続税を猶予・免除する制度です。遺言書で株式を後継者に集中させることが、事業承継税制適用の前提条件の一つになります。詳細は税理士にご確認ください。

当事務所の強み:製造業・化学メーカーの事業承継に精通した支援

jigyoshokei-igon-7

元化学メーカー研究員として製造業の現場を知り、FPの財務知識と行政書士業務を組み合わせた総合的な事業承継支援を行います。遺留分への配慮・資金計画・遺言書の設計から、公証役場での作成・遺言執行者への就任まで一貫して対応します。個別の自社株評価・相続税の計算が必要な場合は税理士にご相談ください。

  • 事業承継を見据えた遺言内容の設計支援
  • 公正証書遺言の作成(公証役場との調整・証人手配含む)
  • 遺言執行者への就任
  • 税理士・司法書士との連携による総合サポート

「後継者は決まっているが、書面化が追いついていない」という状況でも、すぐに動き出せます。

高橋 光のイメージ
行政書士
高橋 光
技術がわかる理系の行政書士。化粧品・産廃・危険物などの許認可から、化審法・安衛法など化学物質規制対応、設備投資の補助金までワンストップ支援。
PAGE TOP